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vol.2 始発電車と駅訪問

これは今から1年以上前の、2023年12月の駅訪問記録です。

始発電車

冬は寒さが厳しい。
朝 起きるのもかなり厳しいが
…自分の好きなものがあるときは、意外とあっさり起きれてしまうものである。

この日私は、伊那市で朝10:00から用事があった。
用事といっても、当時 所属していた管弦楽部の、他校との合同練習だ。
そのため、伊那市の伊那北駅まで電車で移動しようと思っていた。

その際、せっかく伊那北駅まで電車に乗って行くのだから
その途中でどこかの駅に下車しよう、と思ったのが
この駅訪問旅の動機だ。

起床は朝の4:00。
目覚まし時計がうるさすぎるが、5:00に飯田発の始発列車に乗り込むためには
その時間に起きるしかない。
しかも困ったことに、音楽を好む高校生と言うのは何とも上品なのだ。
男子ですら、メイクをしてくる。
だから、俺は寝癖を直すどころか、髪をセットしてから家を出ないといけない。
朝ごはんを瞬で食べ、4:50頃に家を出発。
目的の始発電車に乗り込み、予定通り、辰野方面へ向かった。


①伊那田島駅

最初の訪問駅は、牛山隆信氏の「秘境駅ランキング」にて
192駅中191位、というギリギリラインでランクインした、伊那田島駅だ。

この駅へは以前、車で訪問したことがあった。
その時は周囲に人の気配があるような感じだったので、
ここは秘境駅と呼べるほどの秘境駅ではない、と思っていた。

ブレてるのは、寒かったから手が震えたんです(言い訳)。

しかし、JR東海の駅にしては草だらけすぎるホームに降り立った時、何となく寒気がした。本当は、ここはれっきとした秘境駅なのではないか…??
秘境駅マニアの私は、いつもは秘境駅の訪問に積極的だ。
しかし、真っ暗なこの駅に降り立ち“不意打ち”を食らったとき、かなり驚いた。

暗いだけで秘境感が上がります。

壁の塗装が剥がれた待合室。
駅以外では周囲に一切ない明かり。
期待を裏切らない、いや、あまりに予想外の秘境度に、恐怖さえ覚えた。
もはや1人ではここに立ち止まって居られない(コワイ)。

こう見えて、線路内にはもちろん立ち入らずに撮りました⭐︎

さて、この駅にある引き込み側線は、かつて貨物取り扱いが行われていた証だ。
今でこそ駅の周囲は人の気配のない静かな果樹園だが、かつては賑わっていたのだろうか。

伊那田島駅は後続となる快速列車が止まらない。
なので、快速列車が停車する上片桐駅まで、1駅分歩いて引き返す。

この通り、駅の周りには明かりというものが一切ない。

寒いので体を温めようと思い、小走り気味に向かっていくと…

いきなり自分の目の前に、ボロボロになった廃車が…⁉︎ギャァァァ…怖。
無理だわ。(あ、俺、ホラー系ほんっとうに苦手なんですよ。)
あまりの驚きと恐怖に、気がついた時には全力で走り出して逃げていた。
もう、この駅には恐怖しかない。暗い時間には二度と来てやらねぇと思った。
伊那田島が「秘境駅」であることを、さらに後押しされた出来事だった。

(その廃車の写真を撮ろうと思ったものの、あまりにも周りが暗くてカメラに写らなかった。)


②上片桐駅

やがて、周囲に人家があるところまで逃げてきた。
案外あっさり上片桐駅に着いてしまい、快速みすずが来るまで、極寒のなか写真を撮った。

暗くてよく見えませんなぁ。

高校生が多く利用するこの上片桐駅は、駅舎は広めで新しい。
特徴的な屋根の形がトレードマークだ。
2面2線の構内にはまだ日は登らず、駅の設備の光だけが輝いていた。

構内は2面2線。
20年ほど前までは、駅に隣接するセメント工場まで側線が敷いてあったという。

今まで、暗い中での駅訪問は大抵は夜であったため、
こうして明け方に駅訪問するのは今回が初めてだった。
そして当然、こんな朝早くに通学生は一切おらず、駅には静寂が漂っていた。

電車が来るまで、朝ごはんの続きでも食べながら待っていようか。

やがて、迎えの快速みすずがやってきたので乗り込む。
これで伊那田島駅に降り立った時から続いていた「寒気」はなくなり安心感を覚えるが、
その安心感は一気に驚きへと変わった。
なんと、私の車両に乗客が誰1人いないのである。
「ガラガラに空いている」どころではない。

この電車、誰も乗ってなかった…。

途中、先ほどの「秘境駅」を通過したが、
小さな駅を通過する乗客皆無列車は、北海道の某秘境本線を連想させた。

ロングシートなのに誰もいないとかマジ悲しすぎ。

③七久保駅

誰も乗っていない快速列車はさらに大沢信号場と高遠原駅を通過し、
私の降りる七久保駅に停まった。
七久保駅からは入れ替わりで大勢の人がこの列車に乗ってきたので
この列車の存在意義を感じることができて良かった。

辺りは少し明るくなってきました。時間は6:00頃

七久保駅に着いた私は数枚写真を撮影すると、すぐに高遠原駅へ歩いて引き返す。
30分後に高遠原駅を出発する後続列車に間に合わなければならないのだ。
仮に乗り遅れると、もと来た道を七久保まで歩いて引き返すことになるのだから、
時間には余裕は持っておこうと夜道を小走りで高遠原へ向かった。

途中、木曽山脈と満月の見えるシーンに遭遇した。
空は徐々に明るくなり、日の昇る東の空では南アルプスの向こうから日がさしだした。
今日もまもなく日の出が訪れる。

西の空 中央アルプスと満月
東の空 南アルプスと日の出

④高遠原駅

こうして次の訪問駅、高遠原駅へ向かった。
この駅は、飯田以北の駅の中では比較的 趣きがあるらしく、
あの牛山隆信氏も「雰囲気が良くて気になる」と言述していた駅だ。
事前に航空写真で調べると確かに駅周囲には人家が数軒ほどで、
長閑な雰囲気だろうと思っていた。

薄暗く車通りもまばらな朝の県道を進み、
川を2回渡ったところで路地裏のような小道へ折れた。
しばらく進むと、畑の広がる長閑な雰囲気のところに、小さな駅が見える。
駅前まで続いた小道は線路を越えてさらに先へと続いていくようだった。

高遠原駅

こうして高遠原駅へ到着。徐々に日が昇り、明るくなってきた。
駅周囲は予想を裏切らない長閑さで、
「秘境駅」である隣の伊那田島駅とは違う趣があった。

バックに中央アルプス。のどか。
なんて美しい駅なんだろう…

やがて、普段は特急伊那路として使用される373系が普通列車としてやってきた。
誰も降りず誰も乗らず、飯田方面へと向かっていった。

ヘッドマークが、珍しく「普通」と表示されているのに
写真だと色が飛んでしまった。無念

数分後、この列車と飯田線唯一の信号場・大沢信号場ですれ違った列車がやってきた。
私はこの列車に乗り込み、この長閑な駅を後にした。

私が乗ったのはこちらの313系

⑤伊那本郷駅

次の訪問駅は、私がかねてより雰囲気が良いのではと目をつけていた伊那本郷駅だ。
この駅も高遠原駅と同様、事前に航空写真で調べてみると
駅周囲は田畑が広がっており 人家もやや少ないようだった。

高遠原駅から乗った列車を、伊那本郷駅で降りた。
下り線の真新しい駅舎は「秘境駅」という雰囲気に合わなかったが、
デザインは良い上に とても綺麗なものだった。

一方 上り線はと言うと、元単線駅の名残で、
ホームは仮設のような簡素なものだった。
その上待合室は2、3名で満員の極狭のものだった。
(この時の私はヴィオラを持っていたので、私1人でほぼ満員だった)

このような田舎の駅なら、もう少し雰囲気の良い木造駅舎の方が良いような…
とも思ったが、飯田線には他にないような特徴的な箇所ばかりだった。
この駅の新たな「魅力」を知ることができた。

元は単線だった伊那本郷駅。
後に交換駅化されたため、駅の各所に特徴的な一面がある。
ここも、中央アルプスが美しい駅だ。
213系がやってきた。

⑥飯島駅

計画では、次に当駅へ到着する下り列車で田切駅へ向かう予定だった。
しかし、後続の列車の到着時間まで40分ほどある。
これは、隣の飯島駅まで歩いて行ける時間があると見た!

ここで計画外の「伊那本郷〜飯島の駅間歩き」を実行する。
伊那本郷〜飯島間は 列車ではやや距離が長いが、
それは与田切川を跨ぐための大回りによるものなので、
直線上の距離は短いのでは…と考え、飯島駅へ歩き始める。

しかし、この選択は正しいとは言えない結果になってしまった。
伊那本郷から与田切川までの坂はいきなり森林の中で、人家はまばらだ。
国道に出たが環境の良い道とは言えない。

与田切川と中央アルプス
線路は上流方向へ大きく迂回しているので、ここからは見えない。

与田切川を跨ぐ橋から綺麗な景色が見られたのは唯一良かった点だが、
その直後は、進む気が失せた。
地図で見た最短の道は、堂々と山の中へ入り込んでいく。
全く人の気配のない薄暗い道は、熊の出没なんて
冗談ではなく現実的と言っても過言ではないだろう。

怖いよ。行きたくなーい

さらに、目的とする列車が飯島駅を出発する時刻も近づいてくる。
もう迷ってはいられない!
この山道をダッシュで突っ切った。
やがて人の気配のあるところへやってきて、飯島駅に走り込んだ。
自分より列車の方が先に駅についている(超ギリギリ)。

飯島駅

しかし、列車はなかなか発車しないではない。
なぜだろう、と思っていると、しばらくして向こうから対向列車がやってきた。
なんだよ、俺があんなに急ぐ必要、なかったじゃないか!


⑦田切駅

こうして、飯島駅で乗った電車からは隣の田切駅で下車した。
先ほどの反省もあったため、次の後続列車に隣の伊那福岡駅から乗ることは諦め、
田切駅でゆっくり過ごすことにした。

ホームが狭い…
階段の先に待合室が見える
築堤上の駅

ここは、駅の入り口から長い階段を登った先にあるという特殊な駅だ。
昔は現在よりもやや駒ヶ根寄りの、カーブ上にホームがあったが
急カーブ上にあることがあまりにも危険であったため、現在の高台に移された。
ただその立地上「黄色い線の内側」は数十cmほどしかないため、
本当に安全性が向上したかどうかは微妙である。

元は写真奥に見えるカーブのところに、以前の駅があった。

移設される前の駅跡地は、ホームも含め跡形は一切存在しなかったが、
「田切駅舎跡記念碑」が建てられていた。
ここはどうやら私有地のようだったが、
ちょうどそこの方が畑にいたので話しかけて入らせてもらった。
どこから来たのか聞かれ、
「飯田からです」と答えると
「こんな朝早くにぃ…」と言われてしまった笑
私としてはもう既に7駅目の訪問なので、全く朝早いとは感じなかったが、
確かに言われてみれば、朝早かったのかもしれない。

「田切駅舎跡記念碑」

⑧伊那福岡駅

田切駅を出て、伊那福岡駅へと歩いて向かった。
敢えて逃した一本の列車は、
本当はこの間の「田切カーブ」を通過するところで撮影したかった。
ところがめちゃくちゃ気温が低く、
その列車がここに来るまで10分ほど立ち止まっているのは凍えそうだったので
残念だが素通り。

ここを電車が通過する瞬間を撮りたかった…!

その先の、国道と線路が立体交差しているところで撮れた。
こちらは当たりだったようだ。

313系
もとは、伊那福岡駅からこの電車に乗っていく予定だった。
213系

こうして、最後の訪問駅・伊那福岡駅に到着。
田切カーブをモチーフにしたコンクリート製の駅舎は各所に曲線を用いており、
その一方で四角っぽさも兼ね備えたなかなか個性的なものだ。

特徴的な駅舎

ここは2面2線の交換駅で、さらに、
朝に一本、当駅止まりの列車まで運行されているという、運行上重要な駅なのだ。

やがてその「1日一本の当駅止まりの列車」が入線してきた。
駅に到着すると列車種掲示は「回送」へと変わり、
しばらくした後駒ヶ根駅へ引き返して行った。

「回送」になってる!

それからしばらく待ち、目的となる列車が到着。
これにて上伊那南部の駅訪問旅は終了した。

…といっても、この日は終わったのではない!
元はと言えば、伊那市まで向かったのも、この後の音楽の合同練習のためである。
時刻だってまだ午前9時前である。

なんてことで、朝のうちから疲れ果ててしまったが、
こうして楽しいことから始まる1日も悪くない。
そんなことを考えながら伊那北駅で下車。
私と長い駅訪問旅を共にしたヴィオラを、
ケースから取り出して調弦をはじめた…


いつにも増しての長文でしたが、お読みいただきありがとうございました

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