もうひとつのルビコン川 終焉 紀元前43年ガリア
荒涼のガリアにて、デキウス・ブルータスは真っ白になっていた。ここ一年の動きは彼にとって最も修羅場であった。幾千の戦場を経験した彼とてもこの時期は修羅場であり、残酷な状況であった。
紀元前44年3月15日、ガイウス・ユリウス・カエサルは暗殺された。
奇しくもライバルであったポンペイウスの名前を冠した劇場の前で.....
その三日後にカエサルの遺言状が公開された。
歴史に詳しい御仁であれば、後継者がオクタヴィアヌス、のちにアウグスティヌスという尊称で呼ばれるまだ十代の青年であることは存じ上げていると思う。
しかしながら、後継順位二位、すなわちオクタヴィアヌスになにかあった場合のバックアップとなる人物については、存じ上げない方も多いと思う。
その後継順位第二位がデキウス・ブルータスであった。
この時、デキウスは四十代、男として一番脂がのっている時期である。
デキウス自身は、まさか自分がカエサルの後継者として認めらているとはおもわなかったのである。
しかもデキウスはカエサル暗殺のメンバーに名を連ねていた。
歴史上、有名なのは直接手を下したもう一人のブルータス、マルクス・ブルータスである。
一説にはカエサル最後の言葉、「ブルータスおまえもか」は、マルクスではなく、
デキウスのことではないかと言われている。
カエサルの遺言状の内容を考えると、筆者はデキウス説を支持したい。
この時のデキウスの心境はどのようなものであっただろうか......
デキウスは人生に燃え尽きたように真っ白になったのではなかろうか。
そしてカエサルの遺言の第二条がデキウスの心を打ち砕く。第一継承者のオクタビアヌスが若年の場合はデキウスが後見人として補佐するとあった。この時、オクタビアヌスは18歳…デキウス・ブルータスの心境は如何に…
デキウスにとっての真の「漢(おとこ)」は二人いたのだった。
ひとりは、ポンペイウスに義理を通したラビエヌス。
そしてもうひとりは、自分を後継者候補として認めてくれたカエサル。
そのカエサルの後継者の一人として指名されつつも、反カエサルの立場である。
「自分にはなにが足りなかったのだろうか?」
自問自答を繰り返す。オクタビアヌスの責任感もラビエヌスの心の芯もない…自分は浅はかだった。
荒涼のガリアでデキウスはひとり後悔する。自分自身の浅はかさに.......そしてその悔いを頂きながら最後の戦いを迎える。
完
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