パズルのピース #3 宙に浮いている時間
これは現実ではないという祈り
私の生きる時間軸には宙に浮いているような空間があった。
それは別次元のどこかで起きていること。
だから現実ではない。
そう自分に言い聞かせるように強く念じるように祈っている時間が宙に浮いていた。
それは、おぞましい、体中に虫唾が走るような、嫌悪感でいっぱいの中で、その時間が終わるのをひたすら身を固くして耐えている時間だった。
吐き気を催しながら、どんなに激しく拒絶しても、止めてと強く主張しても、お願いだからやめてくださいと懇願しても、止まらない、何も通じない悪夢のような時間だった。
なぜこんなことをやるのかと理由を聞いても、嫌がる反応の方がおかしいから治してやっていると繰り返されるばかりだった。
そんな反応をする方がおかしい、と。
異常だから治さなければいけない、と。
あまりの苦痛に耐えられなくて、本当にやめてくださいと真剣に訴えても、何も聞こえていないかのようにニヤニヤしているだけだった。
なぜこんなことをされるのか理由がわからなくて、何かの罰に違いないと考えては、自分の行動を変えながら検証した。
テストで100点じゃなかったから?
平均よりもはるかに良い点を取っても、足りない分をいつもダメ出しされた。
だからがんばって100点を取った。
でも、性虐待は止まらなかった。テストの点数は関係なかった。
じゃあ、時々忘れ物をするから?
前の日に学校の準備を何回も確認する。
忘れ物をせずに1学期を過ごせた。
それでも性虐待は止まらなかった。原因はこれでもなかった。
こんな風に罰を受ける原因を自分の行動の中に探しながら、それを一生懸命に変えながら、どうかこれで止まってくれと祈るような気持ちで毎日を過ごす。
でも毎回その期待は裏切られた。
不気味にニヤニヤしながら、私の身体を触る父親の手は止まらなかった。
「成長をチェックしてやっている」とか「それは親として当然のことだ」とか、尤もらしく意味の分からないことを繰り返すだけで話が通じない父親の生贄になるような地獄の時間がいくつも宙に浮いている。
思春期で変化する私の体を舐めまわすように見て評価する。
まだまだだ、とか、鳩胸じゃないか?とかニヤニヤしながら母親に言っている。
これは別次元で起きていること、現実ではない、と自分に言い聞かせる。
現実の私の学校生活は、クラブと習い事で忙しかった。
何も考える隙間がないように、スケージュールで時間を埋めて、そのスケジュールの中の出来事に集中していれば、私は何かから逃れることができた。
不気味で怖い何かに触れないように、一心不乱に隙間のないスケジュールに没頭して毎日を過ごした。
現実と交錯する
中学の体育の授業で体操着に着替えるとき、美しく胸が発達した女子の体を見ながら、この子も触られているのかな?とぼんやり浮かんできた思考に自分で驚いて、慌てて掻き消そうとした。
現実の中に別次元の出来事が急に入り込んできた瞬間だった。
掻き消そうとしながらも、魔が差したように、ちょっと聞いてみようと思いついた。
この子も私と同じかもしれないという好奇心からだった。
その子に「胸を触られたりする?」とさらっと聞くと、その子が戸惑いと嫌悪と軽蔑の目で私を見たので、どちらなのかわからなかったけれど、とりあえず謝った。
こんなこと聞いてごめん、忘れて、と言ってその場を去った。
なぜその子に聞いたかというと、その子はとても大人しくて無口で誰かと打ち解けているところを見たことがなく、内面に何かを秘めながら、静かに怒りに満ちているように見えたから。
その時にその子から向けられた嫌悪と軽蔑のまなざしは、私の身体にこびりついたように離れなくなった。
私はそれ以来、人の体を見ると罪悪感と嫌悪を感じるようになり、まともに人の体を見ることができなくなった。
またある別次元の世界では、私は全身全霊で胸を触られることを拒絶した。
そうしたら、「じゃあ下にするか?嫌なんだろ?だから胸にしてやっている」と意味の分からない恩を着せられた。
私が嫌がるから譲歩してやっているというように。
全く意味のわからない世界に閉じ込められていて、出口がなくて絶望している。ずっと。
そんな別次元の世界。
そんな断片が蘇るたび、吐き気を催しながら強烈な嫌悪感と怒りが同時に湧いてくる。
なぜそんなことをされるのか意味がわからない。
そして、なぜ私はそこからずっと逃げられなかったのだろう?という疑問が湧いた。
(つづく)
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