COP26:「FACT対話」が森林保全への新しい道を示す?!
「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
COP26議長国も森林を重視
世界の気候変動対策の方向性を左右する、気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の開催が迫ってきました。森林関連の問題については、パリ協定第5条ですでに、気候変動緩和・適応のための森林保全、特に途上国の森林減少防止のためのメカニズムであるREDD+の必要性が示されています。さらに、REDD+のルールはすでに合意済みで実施段階に入っていることから、COP26の国際交渉では、大きな注目を集めるような議題はあまりありません。
一方で、COP26議長国の英国は、条約関連の国際交渉とは別に、気候変動緩和・適応の促進に向けたリーダーシップを発揮しようと、各国政府やビジネスセクターに対して様々な取り組みや働きかけを実施してきました。COPは政府間の国際交渉だけではなく、企業や自治体、市民など多様な主体の行動の機運を高めるためのイベントでもあります。議長国だけでなく、様々な国際機関や研究機関、NGO、ビジネスセクターがたくさんのサイドイベントを開催します。
森林を含めた「自然」は英国政府が掲げる重点分野の1つです。COP26期間中も議長国主催のイベントとして、World Leaders Summit Forests and Land Use(現地時間11月2日午前9時~、日本時間午後6時~)や、Nature Day(現地時間11月6日午前9時~、日本時間午後6時~)が開催予定です。
FACT対話とは
「自然」に関する取り組みとして、英国政府がCOP26に向けて準備してきたひとつが、FACT対話(Forest, Agriculture and Commodity Trade Dialogue:森林、農業、コモディティ貿易対話)です。
世界の森林は、国際市場向けの農作物生産のための大規模な農地拡大によって減少し、気候変動を引き起こす温室効果ガス(GHG)排出源となっています。英国政府は、森林減少問題を抱えるインドネシア政府を共同議長として、国際的に取引されている農産品(パーム油、大豆、カカオ、牛肉、木材など)の生産国と消費国を集め、政府間対話を行ってきました。2021年5月27日には、FACT対話を推進するために、日本を含めた23か国による、各国の協力を宣言する共同声明が公表されています(農林水産省プレスリリース)。
共同声明では、この問題の解決のための各国の協力の原則が示されました。
1. 参加国のパートナーシップ
2. シナジーの発揮
3. 各国の主権の尊重
4. 知識、資金、能力開発、技術などの協力と援助
5. すべてのステークホルダーの参加の確保
6. 国際的なコミットメントの尊重(SDGs、パリ協定、生物多様性条約など)
また、共通の目的として、対話を通じて次のような具体的な行動の特定を目指しています。
1. 公平・公正な貿易と市場の発展と持続可能な土地利用、持続可能な生産物への投資
2. 小規模農家、地域コミュニティ、先住民の支援
3. 情報の透明性とトレーサビリティ向上のための方法
4. 持続可能な農業生産のための研究・開発・イノベーション
特徴的なのは、先進国と途上国双方でのサプライチェーンのすべての段階に関わる、生産者企業、消費者企業、生産者(農家・林業家)、森林コミュニティ、先住民族、地域のサプライヤー、加工業者、金融機関、NGO、研究者、草の根活動家などの多様な声が、Tropical Forest Alliance (TFA)が主導するマルチステークホルダーコンサルテーションを通じて集められ、政府間対話に反映されるような試みが実施されていることです。
FACT対話を通じて合意された、貿易と開発の促進と、森林やその他の生態系保護を両立させるための国際的なロードマップは、COP26のWorld Leaders Summitで発表される予定です。このロードマップは、最近国際的に注目されている、食料システムと気候変動の問題への認識を高め、この観点からの森林保全対策を加速させることになるでしょう。
文責:山ノ下 麻木乃 IGES生物多様性と森林領域 ジョイント・プログラムディレクター(プロフィール)