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おはなしとの対話🕯️「おいしいおかゆ」

ストーリーテリングでは昔話や創作のお話を覚えて語ります。
覚えていく過程で、気になるところも出てくるのです。

「おいしいおかゆ」というグリムのお話があります。
3頁ほど短いお話で、語ると3~4分ほどで終わってしまうお話。
おはなしのテキストとしてよく用いられる「おはなしのろうそく1」やこぐま社の「子どもに語るグリムの昔話①」にも載っているメジャーなお話。

その最初の1文が引っかかりました。

むかし、あるところに、貧乏でしたが、とてもきだてのよい女の子がおりました。

子どもに語るグリムの昔話① より

「貧乏でしが、きだてのよい」が引っかかったのです。
貧乏だったら気立てがよかったらダメなの?
このお話を覚えたとき、どうも「貧乏」に反応してしまったのです。
貧乏だっていいじゃない!
貧乏だっていい人はたくさんいる!
貧乏だって・・
貧乏への不安が大きかった時期だったからでしょうか。
貧乏がいけないことのように感じられて、ひっかかったのです。

当時やっぱり気になった方が何人かおられて、勉強会で話題になりました。
「貧乏でも、気だてがいい」・・これも何か違う。
「貧乏で、気立てがいい」・・これはどうだ?
お話を覚えることは、お話と対話することでもあり、こういう細かな部分も気になりだすと気になってしまう。

ある方がその次の「その子はお母さんと二人きりですんでいましたが、あるとき、とうとう、食べるものが何もなくなってしまいました」と組み合わせて、きれいにまとめておられました。

むかし、あるところに、とてもきだてのよい女の子がおりました。
女の子はお母さんと二人きりですんでいましたが、貧乏だったので、あるとき、とうとう、食べるものが何もなくなってしまいました。

ある方の冒頭アレンジ

私は、「これだ!」と思って、何年かこの冒頭で「おいしいおかゆ」の話を語っていました。

でもある時「お話に力がない」と感じて、元のテキスト通りに戻しました。

「貧すれば鈍する」とはいいますが、食べるものが何もなくなるような貧乏の中、気立てよくあろうとする女の子の強さ、健気さ、気高さを伝える言葉が
「貧乏だけど、気立てがいい」の短い言葉で表されている、と腑に落ちたからです。
このあと女の子は森に行き、森にはおばあさんがいて、女の子が困っていることをちゃんと知っていて、女の子に「頼めばおかゆがいくらでも出てくるお鍋」をくれて女の子はひもじい思いをすることはなくなります。

おばあさんが助けてくれるのは、「貧乏だけど、気立てがいい」女の子だったらこそ。
どんな困難な状況になっても、食べるものがなくなるような貧乏であっても、「気立てがいい」状態であることは困難なこと。
高齢者をだましてお金をもぎとろうとするオレオレ詐欺。
丹精込めてつくったメロンやサクランボを盗む輩。
人気のない太陽光発電設備から材料の銅線を盗って換金するグループ。
ニュースに出てくるのはどう見ても「気立てがよくない人」の話ばかり。
こんな人には、おばあさんは「いつでもおいしいおかゆが食べられるお鍋」をくれないでしょう。

人を傷つけて得たお金で幸せになれるのか?

昔話は子ども騙しのファンタジーではありません。
昔話は今に生きる智恵の宝庫。
幼いとき、聞いたときは意味が解らなくても、
シャワーのように「生きるとは」の知恵がつまったお話を浴びせたい。

大人になって辛い経験をしたときに、
昔話の中の「生きる知恵」を再び見直したくなります。
「貧乏だけど、気立てがいい」このたった十数文字のことでストーリーテリングの仲間はこれだけ語り合える。
それは、覚えることが、語ることが、お話と対話していくことだから?

こんな世界もあるのです。
※ 「おいしいおかゆの」はここから展開していく話です。


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