美しい器。「バカなフリ」も「頭いいフリ」もしなくていいんだよ
僕は言った。
バカなフリはしなくていいよ
あなたは、夕方、
家を抜け出して
僕に電話してくれた。
とても苦しそうだった。
美しい人。
あなたはバカじゃない。
僕はよく知っている。
ずっと見てきたから。
美しい人。
僕の知らない本を読んでいた。
僕の知らない音楽を聞いていた。
小学校低学年の僕を連れて
池袋や渋谷の汚い街を歩いた。
30代の男性が振り返る。
10代の男性が目で追う。
50代の男性が盗み見る。
奔放で邪悪で、
蠱惑的な僕の女王様。
僕は誇らしかった。
あなたの思想が、自信が、輝きが。
僕は恐ろしかった。
あなたの反抗が、怒りが、色香が。
今のあなたは、
美しい器。
僕の美しい人。
僕は苦しい。
僕の女王様が
間違って認識されていることが
苦しい。
あなたが本当の自分を
捻じ曲げているのが苦しい。
だから僕は言った。
バカなフリはしなくていいよ
内緒のXアカウント。
僕がシリアルをお重に詰めたり、
既視感の正体を探究したりしてるよ。