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3ミリの距離。更衣室で男の子たちは狼狽し、僕は「にやっ」とした
話を始める前に、僕の性別について。
僕は「女性」だ。
一人称が「僕」と「私」の時があるので
混乱させて申し訳ない。
その冬、僕はバイトをしていた。
居酒屋で皿洗いや調理をしていた。
鍋は重かったし、調理場は暑かった。
僕は(変わらずの)でくのぼうで
みんなに助けられながら仕事をしていた。
重い鍋は、熊のように大きい男性が
移動させてくれた。
異臭を放つ大きなごみ袋捨ては
現地の警察が手伝ってくれた。
その日、バイトが終わったあと
僕は居酒屋に残っていた。
誰かの送別会だったと思う。
僕はビールを飲んでいた。
向かいの席に座る男の子と目が合った。
僕はにやっと笑った。
その男の子は恥ずかしそうに笑った。
その男の子の目は
僕の目を覗き込もうとしていた。
僕はそれに応える気持ちで
その男の子の目を見ていた。
僕の携帯電話が鳴る。
彼から電話がかかってきたのだ。
男の子の目を見つめながら
僕は電話に出た。
「居酒屋の前に着いたよ」
彼が迎えに来てくれたのだ。
「もう行かなくちゃ」
僕はそう行って更衣室へ向かった。
小さな更衣室で
油まみれのTシャツを脱いで丸めた。
総レースのくたびれたブラジャーの
上からフーディーを乱暴にかぶる。
汚れた鏡に顔を映し
とれてしまった口紅を塗りなおす。
更衣室の扉が開いた。
ノックなしで開いた。
僕は誰が入ってきたのかわかっていた。
僕たちは狭い更衣室の中で
お互いの顔を見つめていた。
僕は首を少し傾けて
顎をあげて見つめていた。
僕たちは顔をゆっくりと近づけた。
唇までの距離は3㎜。
その時、更衣室に誰かが入ってきた。
僕の友人だった韓国人の
男の子だった。
見てしまった…
見られてしまった…
狼狽する男の子たち。
僕はなんだか
くすぐったい気持ちになって
「おつかれさま、おやすみ」と
ふたりに言って更衣室をあとにした。
その冬、僕はアルバイトをしていた。
居酒屋で皿洗いや調理をしていた。
追記:今僕は『傲慢と善良』を読んでいます…架の女ともだちの意地の悪さに(ああ、こういうのあるよな、うむうむ)震え、真実ちゃんに何があったんだろうと夢中で読んでおります…