恐怖による興奮。81歳淑女とお茶、ラフマニノフ
僕は興奮している。
性的なものではない。
恐怖由来のものだ。
15時、お茶に招かれた。
彼女の家は山の中にある。
坂道をのぼる。
81歳のマダムの家まで
歩いて20分。
18時、
おいとまいたします。
と言って
僕は彼女の家を出た。
漆黒。
星がきれいだ。
マイナス3度。
どうってことない。
携帯電話の
フラッシュライトを点けた。
心細かったので
お供に一曲選んだ。
あの人が教えてくれた
ラフマニノフの曲だ。
闇に放り出されたような
不安感に襲われた。
怖い…
星以外の
視覚情報がないことに
恐怖を感じた。
僕は携帯電話を落とした。
携帯電話はすーっと
10 mほど滑りおちた。
僕は転倒しないよう
足の裏に力を入れた。
氷が張っていないところまで
辿りつくと、携帯電話を拾った。
そして
僕は走った。
闇の中を走った。
音楽と呼吸、
足音だけが聞こえた。
自分の妄想が恐怖心を煽った。
イノシシが出るかも
野犬がいるかも
でもいちばん怖いのは人間…
全速力で走った。
光が見える。
教会だ。
死ななくてよかった。
大袈裟だけれど、
僕はそう思った。
勢いよくドアを開け
部屋に戻り、
床に倒れ込んだ。
3番の細さのスパゲッティに
お手製トマトソースと
チーズをかけて食べた。
赤ワインをゴブレットに注いだ。
アップルクランブルを食べた。
寝床に入って
乱暴に衣服を剥いで
すっかり裸になって
眠った。
胃の中で
興奮とスパゲッティと
赤ワインと恐怖と
アップルクランブルが
ごちゃ混ぜになったまま
眠った。
僕のXアカウント。
僕がゴリラと呼ばれたり、
暖炉に癒されたりしてます。