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文学フリマ出店作品から抜粋です

12月1日の文学フリマ東京で出店(P-20です!)します。「棚の記録と頭の記録」という棚にあるレコード・CDのディスクレビューと、足を運んだそのアーティストのライブの記憶を5アーティスト分書きました。

こちらはそのうちの一つ、一番影響を受けたバンドのThee Michelle Gun Elephantに関して書いたものを見本として公開いたします。ご興味有りましたら是非、当日ブースまでいらしてください!

あなたの好きな音楽の話も聞かせてください!

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Thee Michelle Gun Elephant
"Sabrina Heaven"  2003年

 中学3年のときだから1996年だ。キャンディ・ハウスとリリィがリリースされ、両曲が収録されている「High Time」を聞いてからは狂信的と言っていいくらいのめり込んだ。
特に97年リリースの「Chicken Zombies」、98年リリースの「ギヤ・ブルーズ」は筆者の教典として音楽の嗜好における礎になっている。99年の1回目のライジング・サン・ロックフェスティバル(以下RSR)での圧巻の演奏は人生でベスト級のライブ体験の一つだ。
正直に言うと、ギヤ・ブルーズの後の2枚はあまり好きではない。モッシュピットでクラウドサーフがとめどもなく続き、より激しさを求められているように感じたのだろうか。根が真面目だったのか、ああ見えてサービス精神が旺盛だったのかはわからんが、バンドがフロアの求める「激しさ」という期待にキッチリ応えすぎたようにスピードがあまりに上がりすぎ、ギターの音はマーシャルJCM900に変わり歪みがハードになった。
決定的だったのは同じくRSR2002でのライブ。圧巻だったライブも鳴りを潜める、チグハグ、ヤル気が無さそう、仲が悪そう…等。音符と楽理を用いず音楽を説明するロキノンみたいな感情表現がここまで当てはまるライブもなかなか見れるものではなかった。
この頃からWhere is Susie? Tourにかけて、ロキノンをはじめ、他の音楽雑誌でも「ミッシェルはもう終わりだ」的な論調で語られることが多くなった。ついでに言うと物販のTシャツもぶっちゃけダサかった。カサノバまでは「World Wide Love!」とコラボしてたってのに…。そんな中に出たのが本作である。
「このアルバムが好き」というミッシェルファンに出会ったことがない。その気持もわかる。過去作と違いすぎる。ミッシェルの音楽的基礎だったパブロック、60'sブリティッシュ・ビート、ロンドンパンク、ネオモッズ、ガレージ。こういった要素がほぼ消えた。音像もコンプレッサーでパツパツに潰され、耳の真横に音が貼り付けられたような音作りから、スティーヴ・アルビニ(R.I.P)的な音が遠くで鳴っている音作りに変わった(これは恐らく当時メンバーがハマりまくっていたNirvanaのIn Uteroからの影響から)。楽器もエレクトリック・ピアノ、メタルパーカッション、アコギ、トランペット、アコースティックピアノ、終いにはダブ処理された曲もある。書き連ねると、そりゃ好きっていう人少ないよなぁ…と納得もできる。近似値や引き合いになるバンドやアルバムが思い浮かばない。
The Clashにおける「Sandinista!」であり、デヴィッド・ボウイにおける「LOW」であり、Radioheadにおける「KID A」のような作品の位置づけと言える。変化と実験を求めながら通底にあるメロディの強さと結びついた美しいアルバムだ。
ライブでもチバがウーリッツァーを弾き、クハラがハイピッチのサイドスネアを叩きトランペットを吹き、ウエノは赤いジャズベースで音の変化をつけ、深いリバーブやディレイがこだまする中、アベだけは今まで通りだった。アルバムツアーを見終わった筆者は「すごすぎる。完全に復活をした!」と興奮しながら帰路についた。その後、最終発表付近で出演が決まったフジロック03。初日朝一番のグリーンステージでのライブは新旧の曲を混ぜつつ、「ジェニー」の途中に前年に逝去したジョー・ストラマーを追悼するがごとくThe Clash版のI Faught The Law を混ぜたりした。過去のライブがスーパーチャージャーを積んで火花を散らして突っ走るボロボロの改造ワゴン車だとしたら、速度もタフさもあるが優雅さとイタズラ心もあるボンドカーを見るかのようだった。先にRSR99でのライブが人生ベスト級と書いているが、ミッシェルのベストライブは個人的にはこのライブと断言できる。
「次のアルバム凄いことなる!」と興奮したフジロックの帰り、新潟の街に貼られていたのは「LAST HEAVEN TOUR」というとてもストレートなツアータイトルが書かれた告知ポスター。その3ヶ月後に解散となるわけで、勝手に手応えを感じて次のアルバムに期待していたのは田舎の大学生のファンである筆者だけだったのかもしれない。
2009年にギターのアベフトシが、2023年にボーカルのチバユウスケが死んだ。楽しみにしていたミッシェルの新譜は現世で聞くことはなさそうだ。あーあ。どんな音なのかね。


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