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【放送後記】#02 9割が知らない犯罪被害者支援の歴史【ゲスト:小西聖子先生(犯罪被害者学)】

誰しもが、向き合うかもしれない

2023/05/24に収録した小西聖子先生ゲスト回が公開となりました!
タイトルの通り、小西聖子先生は犯罪被害者学のパイオニア的存在です。犯罪被害とその支援の実情を、誰しもの身に降りかかるかもしれないこととして学ぶ機会になればと思います。
なお今回は題材の性質上、センシティブなお話が含まれます。その点ご了承のうえ、ご視聴の際は無理のないようご注意ください。

↓↓↓ご視聴はこちらから!↓↓↓

なお、エンディングで告知のあった学会はこちらです(一般参加不可)。

登場した専門用語

今回は複数の専門用語や頭字語が登場しましたが、辞書で引いてもいまいちピンとこず…。せっかくなので先生に尋ねてみました。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)
心的外傷は、お話の中ではトラウマと言っていたものですね。だから、トラウマがあった後に起こってくることという名前なんですけれど、基本的にはいくつか特定の症状があります。
例えば侵入症状(再体験症状)。自分のコントロールが効かない形で過去の記憶が繰り返し蘇ってきて、非常に苦痛だというような症状や、あるいはトラウマのリマインダーと言いますが、何か思い起こさせるもの――被害に遭った時にカメラに撮られていたとしたら、こういうカメラのシャッター音とかですね。そういう音がすると苦痛がすぐ蘇ってくるので、それを避けるために、カメラがあったり、ライトがあったりするところには絶対行かない。そういう回避の症状もあります。また、認知や感情がネガティブに変化するという症状。それからリラックスができないこと。覚醒亢進(過覚醒)って言いますけれども、そういう4つの症状が主になってできている慢性の症状です。
トラウマがあって具合が悪ければPTSDになるわけではなく、一定の基準に当てはまらないと診断はつかないということになります。

DID(Dissociative Identity Disorder:解離性同一性障害)
衝撃的なことがあって生存が脅かされたりしたときに、普通は人は逃げるか戦うかします。でも、逃げることも戦うこともできないような、例えば圧倒的に強い相手や閉じ込められた状況なんかになると、今度は自分を変化させます。どのように変化させるかと言うと、痛みを遮断したり、あるいはその記憶を変えたり、記憶がなくなってそのことを思い出せなくなったり、それから離人感なんかもよく起こりますね。自分から抜け出して自分を見ているような感じ、普通の言葉でいえば幽体離脱って言いますけれども。それぞれすごく特色がありますけれど、そういうようなことが起こることを「解離」と言います。
解離性同一性障害はその中の最たるものと言いますか。自分の記憶や意識や感情というのが、縦割りになっている状態です。だから本当は多重の人格があるわけではなくて、ひとつも完全な人格がないという風に考えていただいた方がいいですね。それぞれバラバラに人格断片が存在するような状態のことをDIDと言いますが、慢性で、逃げようのない大変なトラウマが繰り返し行われたりすると、DIDが生じてくることがあります。

Q. PTSDの中のひとつの症状ですか?
A. いえ、違います。DIDはトラウマと関連が深いけれども、別の病気です。DIDの人はだいたい記憶に障害があって、虐待の記憶が意識されていないこともあるので、むしろDIDが治ってくるとPTSDがしっかり出てくるということはあります。ただ、この言い方はあんまり正確ではありません。

Q. 「幽体離脱」とありましたが、患者さんからすると自分がビジョンで見えているんですか?
A. そうです。不思議な感じなんですけれど、自分が被害に遭ってるところを上から眺めていたという方はそんなに珍しくありません。被害の最中から起きている人もいますし、被害の後に何かストレスがかかると幽体離脱してしまうような状況になる人もいます。
また、離脱感にはいろいろな表現の仕方、バリエーションがあって、鏡を見ているときにどうしても自分だと思えない、というような感じで表されることもあります。

ドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence:DV)
最近、海外ではドメスティックという言葉を使わないで「インティミット・パートナー・バイオレンス(Intimate Partner Violence:IPV)」と呼んでいます。「インティミット」=「親密な」ですけど、性的に親密な、という意味を含んでいることが多いですね。
だから、性的に親密な関係にあるパートナーからのバイオレンスです。
なぜ名前がそう変わったかというと、男性から女性、女性から男性だけでなく、様々なジェンダーを持っている人の中にも当然DVはあるからですね。このことからも分かるように、DVというのは基本的にパワーの差に基づく、人のコントロール、支配という風に考えています。

Q. 名称でも進展が見られるんですね。
A. そうですね。日本ではDVって言葉があまりにも普及しちゃって、バラエティ番組でもDVって使っているぐらい普及しているから、なかなかこれを変えるのも難しいかもしれませんが、もう英語の研究文献では全てIPVになっていますね。

スーパービジョン
専門家が専門家を教えることです。特に心理領域では、実際のケースを指導しながらやるという感じ。
実際にどうやっているかと言うと、患者さんに承諾をいただいて(心理臨床の場合はクライアントさんですけれど)ビデオ撮影をして、そのビデオを一緒に見ながら、毎週臨床の指導をします。
ビデオを見るというのは多分、今まで普通にはやられてこなかったことだと思います。逐語訳なんかでやってることが多かったんだけれども、このPTSD系の認知行動療法に関してはわりとビデオが使われています。

心理療法と「心のケア」

小西先生のご著書に、このような記述があります。

(阪神・淡路大)震災以降、精神的な援助の必要性について関心が高まったのは確かだろうと思います。むしろ、関心が高まり、「心のケア」という言葉が一人歩きしているのが現状ではないかと思います。

『トラウマの心理学 心の傷と向きあう方法』(2001、NHKライブラリー)

ちょうど私の生まれ年に出版された書籍ですが、22年経ってもこの現状は変わっていないのかもしれない、と思わされたやりとりがありました。
↓↓

森貞:
心理療法の典型的なプロセスといいますか、具体的な治療の手順を示すことは可能ですか?

小西先生:
それはどういう障害についてでしょう? それによってすごく違うんです。
今の質問の感じだと、やっぱり世の中の人が普通に思う心理カウンセリングなんですね。何か問題があれば一定の手続きで良くなるだろう。で、それはお話を聞くことなのかな、というのが、多くの人が思っている心理カウンセリングなんですけれど、例えば私がやっている療法は「PTSDの治療」であって、それ以外ではないんですね。例えばパニック障害にも同じような原理を使った療法はありますが、手続きは別です。
そういった一定の治療レベルの心理療法もあれば、学生相談室でやるような「まずはお話を伺いましょう」という形でサポーティブに聞くタイプの心理療法もありますし、精神分析に基づく療法もあるわけですね。それぞれやり方も、対象とする人も全然違います。例えば、サポーティブカウンセリングであれば、対象となる人は病気である必要は全くないので、何か悩みがある人が自分自身で悩みを明確化できるようにお話を聞くっていうところに留まりますよね。しかし、そういうサポーティブカウンセリングではPTSDを完全に良くすることはできないことが分かっています。ないよりはあった方がいいですけれど。そういう意味では、その心理療法の中身も特殊、多様ですね。
だから今のご質問には簡単には答えられません。

森貞:
「心のケア」という言葉の与える認識がいかに曖昧かということが、今の質問にも現れているような気がします。

小西先生:
はい、その通りですね。

実は「笑っていいとも」に出ていた & 武蔵野大学着任の裏話

今回はちょっと重たい題材を取り上げたので、ここで一旦びっくり話をふたつご紹介します。

①「笑っていいとも」のお話。
小西先生が大学院三年生のとき、ウッチャンナンチャンと一緒に心理テストのコーナーをやらないかと出演依頼が舞い込んだそうです。「おもしろそうなことにはなんでもチャレンジしてみよう」との考えで出演することにしたとのこと。(『インパクト・オブ・トラウマ』より)
本編でのお話とはまたちょっと違った角度の、すごいご経歴です。

②武蔵野大学着任の裏話。
こちらは本編に入りきらなかったやりとりをお届けします。
↓↓

伊藤:
武蔵野大学に着任された経緯をお聞きしてもいいですか?

小西先生:
被害者相談がある程度実績をおさめたので、当時は医科歯科大学で主任・助教授という形でやっていたんですけれども、やっぱり自由にやれるところが欲しいなという思いがありました。それでどうしようかなと思っていたときに、武蔵野大学の前理事長である田中教照先生から直接スカウトいただいたんです。
どうして田中先生が私のことを知ったかというと、阪神・淡路大震災のときにボランティア活動を支援してくださった、私の近所に住んでいたおじさんがいて、その方が浄土真宗で田中先生とお知り合いだったみたいです。私は全然知らなかったんですけど(笑)
本当にもうご縁だなっていう感じです。

江端:
前回学長にもお話を伺ったんですけど、武蔵野大学って先進的な学問をすごく積極的に取り入れてる姿勢があるなと思っていて、小西先生もその一人だったんだなと思いました。

小西先生:
そうですね。どんな風に思われてたかは分からないですけど、私としてはやっぱり新しいところでちゃんと研究ができるようにしたかった。あんまり固まってる大学だと、なかなかその中で新しいことをやるのは難しいかなという気持ちもありました。私が来たときに、初めて新しく大学院を作ったんですよね。それくらいのときなんです。そこで心理職の養成を始めるということだったので、それならトラウマの研究もできるかなという気持ちはありました。

小西先生、イドバタコウギはいかがでしたか?

小西先生に収録後の感想を伺いました。

小西先生: 
 たくさんお伝えしたいことがあるんですけれど、つまみ食い的にお話しすることが誤解を生まないかどうかというのは、こうやって話すとき私はいつも心配しています。今日お話ししたことだと、だいたい5分ぐらいのことを1時間ぐらいかけてお話ししてようやくかなと思うので、ちょっと乱暴な言い方になっていたらいけないなと思っています。
 でも、知っていただきたいという気持ちは強くあります。それで、学生さんおふたり(伊藤・江端)が、被害者支援という領域が元々あって、権威とまでは言わないけれども一定の学問領域として成立しているっていう認識でいるのが私にとってはすごく新鮮でした。今の人はそういうふうに思うんだなと。そういうふうに皆さんに知っていただけることは、やっぱりすごく進歩してきたいいところなんだと思うんですが、全然そんなに一定したものではないし、学問としてでなく「被害者支援」ということを考えても本当にまだ未完なところがたくさんある領域ですね。それは学問領域どこでもそうでしょうけれども。だから、法律が1歩進むとやることは10個あると言ったけれど、本当は100個ぐらいあるのかもしれなくて、未だに日本の被害者支援は世界の先進とは言えない状況にあります。そういうこともちょっと知っていただけたらなと思います。

おわりに

今回のイドバタコウギ、いかがでしたでしょうか?
毎度毛色が変わるのもこの番組ならではの魅力かと思いますので、ぜひチャンネル登録のうえ更新をお待ちください!
各種SNSのフォローも、よろしくお願いいたします…!

文責:森貞 茜


番組クレジット(収録当時)/SNS情報

9割が知らない犯罪被害者支援の歴史【ゲスト:小西聖子先生犯罪(犯罪被害者学)】#02
ゲスト:小西 聖子 先生(医師、臨床心理士、公認心理士)
企画/パーソナリティ:伊藤 遥香・江端 進一郎(日本文学文化学科4年)
撮影:大石 歩果・森貞 茜(日本文学文化学科4年)
   堀 羽美(日本文学文化学科3年)
編集:江端 進一郎・伊藤 遥香・森貞 茜(日本文学文化学科4年)
監修:土屋 忍(日本文学文化学科 教授)
参考文献:
 小西聖子「おしゃべり心理学」(朝日新聞社、1993年)
 小西聖子「インパクト・オブ・トラウマ」(朝日新聞社、1999年)
 小西聖子「トラウマの心理学 心の傷と向き合う方法」(日本放送出版協会、2001年) 
 小西聖子「犯罪被害者の心の傷 増補新版」(白水社、2006年)
 小西聖子「ココロ医者、ホンを診る―本のカルテ10年分から―」(武蔵野大学出版会、2009年)
収録日:2023年5月24日(肩書・学年は収録当時のもの)
提供:武蔵野大学

武蔵野大学発インターネットラジオ番組「イドバタコウギ」
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Ⓒ武蔵野大学インターネットラジオ研究会

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