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水質改善、震災復興の豊富な経験で「負の轍」を踏ませない援助を【(株)日水コン 創業65周年スペシャルインタビュー】

フィリピンやインドネシアで非ODA事業にも挑戦
(株)日水コンは今年5月、創業65周年を迎えた。中期経営計画で「水のインパクトカンパニー」を目指す同社の取り組みや、海外事業の現況・展望について、野村恭悟副社長執行役員に聞いた。
(聞き手:国際開発ジャーナル社 和泉 隆一)

野村 恭悟 副社長執行役員
東京都出身。1988年3月に中央大学理工学部を卒業。1996年9月に(株)日水コンに入社。2023年4月、副社長執行役員に就任。他に、インフラマネジメント本部長、中央研究所長、建設業法経営業務管理責任者を兼務し、多忙な日々を送っている。


創業翌年から海外事業に参入

――創業以来、御社が目指してきた理念からお聞かせください。
 当社は1959 年に(株)日本水道コンサルタントとして創業し(現社名になったのは 1983 年)、翌年から海外事業にも参入した。
 当社が国際協力において重視しているのは、先進国が成長の過程で経験した「負の轍」を踏ませないよう、われわれの知見を極力伝えていくということであり、その意味で海外事業はまさにわれわれの創業以来の経験をすべて注ぎ込むようなものと言える。
 思えば、1960 年初頭の日本は工業化が進み生活が豊かになる一方で、排水の垂れ流しによって川も海も汚れきっていた。そこで水質汚濁防止法が制定され、下水道の普及率向上が国の施策として位置づけられたが、当社は、当時の日本で水質検査機関を有する数少ないコンサルタントだったこともあり、全国の下水道普及の計画づくりに携わることができた。
 この経験は、今も海外事業で大きく役立っている。なぜなら第一に先ほど述べた「負の轍を踏ませない」、つまり日本が経験してきた水質汚濁を他国で起こさせてはならないという意識が徹底しているからだ。水源が汚れれば浄水にも非常にお金がかかるし、浄水が不十分だと住民に不衛生な水を配ってしまう。そのようなことがないように、日本で下水道の普及を進めた先人たちの技術と経験をもとに、法制度を整え、上下水道の普及について現地行政を指導する。われわれにはそのノウハウが染みついている。
 もう一つは、創業当時から海外事業に従事してきた当社が、長年にわたり各国の上層部と関係を築いてきたからだ。国によって水供給の実態も、求めている支援の内容も異なる。例えば、ある程度援助が進んでいる国(インドネシア、スリランカ、インドなど)にとっては、いかにして建設された施設を運転維持管理していくのか。進んでいない国(ラオス、カンボジア、ミャンマーなど)では、まだ水そのものの確保が課題なので、いかにして効率的に水を確保できるか(水源開発)が援助の主体となっている。
 当社がその国にあった支援をていねいに行えるのは、各国のニーズに合った効率的な援助を上層部と大局的に議論しながら進めることができるからである。
 
――御社が担当する政府開発援助(ODA)の現況は。
 アジア・大洋州はカンボジア、ベトナム、パキスタン、フィジーなどが支援の対象だ。また、アフリカの ODA 業務は、予算が拡大されたこともあってトレンドとなっている。当社も 2018 年からルワンダの首都キガリで水道マスタープラン業務を受注し、22 年からはエチオピアで無収水削減プロジェクト(技術協力)を進めている。
 アフリカ地域においては、近隣諸国との横のつながり・相互の学び合いが強いため、面的に経験を積み上げることが重要であると考えている。ただし日本のODA予算は、これからあまり増える見込みがない。そのため海外事業を増やすには、ODAとして需要がある分をこなしながら、官民連携など非ODA事業にも積極的に挑む必要がある。 

コンサルタントとしてEPCにチャレンジ!

――非ODA事業の内容は。
 非 ODA 事業で求められるのは、即効性である。そのため設計・調達・建設を一括で行う EPC 契約が主流となっているが、われわれコンサルティング企業はそうした経験がほとんどない。そこで、EPC契約の経験が豊富な日揮グローバル(株)と業務提携することにした。こうした実績を積み重ねて、さまざまな民間企業と協力して海外事業を行う機会につなげていけたらと考えている。

水のインパクトカンパニーへ

――御社は今年 1月に起こった能登半島地震の復興には関与していますか?
 能登半島はこれまでの被災地に比べて長く細いうえ、想定外ともいわれる地形の隆起もあって非常に条件が厳しい。当社は単独ではなく、(公社)全国上下水道コンサルタント協会の一員として技術者を派遣している。
 当社の設計部隊はこれまで国内で数々の震災復興を手掛けており、ノウハウも蓄えてきた。能登半島でも自治体の関係部局や、他の企業の技術者と共に作業を進めているが、それでも難航している。この経験を、将来は海外の災害対策にも生かしていければと思っている。

――人材育成や経営計画など、次の5年・10年に向けた展望を教えてください。
 当社では「中期経営計画 2025」を策定し、「水のインパクトカンパニー」という基本方針を掲げた。同計画では「壁を超える」「地域に根差す」「足元を固める」という3つの戦略を柱として、2025年までにさまざまな社会課題を解決しながら、経済的成長を実現する企業となることを目指す。当社は上下水道事業専門の設計会社と思われがちだが、河川部門や環境部門なども部署として持っている。それは当社の企業活動が、上下水道のような都市部の水循環のみならず、流域全般の水循環に寄与することを目的にしているからである。この目的を十分に果たすため、ここ数年は社員募集に積極的で、毎年新卒 30 人前後、中途 20 人前後を採用し続けており、技術系も、管理系もバランスよく採用している。
 最近は海外希望の若者が少ないなどと言われているが、幸いにも当社には「社会貢献がしたい」という強い意欲をもって入社してくれる人が多い。
 当社の企業活動は、持続可能な地球環境のための SDGs、カーボンニュートラルなどに代表される取り組みと方向性を一にしており、当社の社会的な価値もそこにあると考えている。だからこそ、その責任の重さを痛烈に肝に据え活動を継続する必要があるものと考えている。


(株)日水コンの主要プロジェクトは、下記PDFからご覧いだだけます。


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本記事は国際開発ジャーナル2024年5月号に掲載されています
(電子版はこちらから)


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