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空間情報技術で社会をつなぎ、地球の未来を創造する【アジア航測(株)創業70周年スペシャルインタビュー】

脱炭素事業などサステナブル経営も推進
アジア航測(株)は今年2月26日、創業70周年を迎える。次の10年に向けて、航空測量をはじめとする同社の技術をどのように進化させて、途上国に貢献していくか、畠山仁代表取締役社長に聞いた。

畠山 仁 代表取締役社長
1985年久留米高等専門学校卒業、1996年にアジア航測入社。2017年取締役、20年常務取締役に就任し21年より現職。福岡県出身。


技術に始まり営業力で開花
――まずは御社創業の経緯や、経営理念について教えてください。

 1954 年「アジア航空測量(株)」として設立、当時の航空測量業は日本では新しい産業であった。「日本が戦後復興を遂げるためには国土の基盤情報が必要」という信念の下、航空関係の有力者はもとより、ほとんどの電力会社、千代田光学精工(現・コニカミノルタ)などから出資していただき当社が生まれたと聞く。2年後には運輸省(当時)の認可を受けて自社航空機の運航を開始。世界で初めて解析航空三角測量法の実用化を行うなど、意欲的に技術を発展させて市場を切り開いてきた。
 そうして得た情報解析技術を生かして、1962 年にはコンサルティング部門を立ち上げ事業を拡大、翌63 年に社名を「アジア航測(株)」に変えた。以降、空間情報を基盤として国土保全や社会インフラ整備に携わっており、近年は持続可能な開発目標(SDGs)経営を基盤として人類と自然とが調和する地球環境保全、安全・安心で持続可能な社会を実現する取り組みを行っている。
 1960 年代といえば、第5代社長・駒村雄三郎の時代に、全5条の「経営理念」を定めたことにも触れておきたい。当時、戦後最大不況(40 年不況)で経営が厳しかった中、「事業は人が創る新しい道である」「事業は人格の集大成である」「事業は技術に始まる」など、当社を立ち上げた人々の思いを込めて事業の真髄を示した。社員に創造性や公共性を自覚させる狙いがあった。
 時がたち、この経営理念は忘れられていたが、2008 年に14 代社長として大槻幸一郎が就任した際に、時代環境に合わせて改訂。「事業は技術に始まる」を「事業は技術に始まり営業力で開花する」に変更し、第6条「事業はより高い利益創造で発展する」を新たに付け加えた。改めて読むと、1960 年代から受け継がれてきた創造性や公共性は今なお重要で、第16 代社長として守り、継承していくのも私の役割だと信じる。

開発協力大綱の改定を好機に
――経営理念を、より社内に浸透させたいということですか。
 開発途上国におけるSDGs の達成や、気候変動に伴って激甚化した自然災害への対応など、地球規模な社会課題は近年、より複雑化している。これら課題解決のためには、創立当初からの航空測量技術や解析技術の研鑽・深化も重要だが、これまでの専門技術分野にとらわれることなく、新たな枠組みでの技術開発・融合も必要である。さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて事業面と経営管理面の基盤を強化したり、従業員と社会の幸せを共につくり続けることも必要となる。
 そうした中で、行動の基準、あるいは核となるのが経営理念だ。例えば、新型コロナ禍中は従業員のほぼすべてをリモート勤務にした。「上司が見ていないところで社員が9時から17 時まで働くか」など不安もあったが、多くの社員が不安な状況下でもリモート勤務を受け入れ、自らを律して成果を上げた。オンライン会議などもうまく活用し期待以上の成果をあげてくれた点は、今後の働き方を考えるうえで大いにプラスとなった。
 創業70 周年を迎えるにあたり、今年10 月に次の10 年間の経営目標・戦略を示す「長期ビジョン2033」を制定した。同ビジョンの柱は「空間情報技術で社会をつなぎ、地球の未来を創造する」であり、「事業戦略」として収益力の向上や積極的な成長投資、「企業マネジメント戦略」としてサステナブル経営、ウェルビーイングの追究、ダイバーシティ&インクルージョン等を掲げた。10 年後には売上高600 億円、営業利益45 億円を目標とする。

――海外業務の現況は。
 海外業務の売上は年間10 億円程度を目標に業務範囲を拡大している。国内業務の350 億円に比べて占める割合が低いものだが、2023 年6月に開発協力大綱が改定され、相手国の要請を待たずに提案する「オファー型」の協力を強化する方針を示したので、当社が強みとする技術を生かして各国に支援メニューを提案していきたいと考える。
 長期ビジョン2033 でサステナブル経営を掲げ、再生可能エネルギーやカーボンクレジットなど脱炭素事業を推進すると共に、当社のCO2 排出量を2030 年までに42%減らす(2020 年比)ことも、同ビジョンに盛り込んだ。
 技術面では、照射したレーザー光の反射によって対象物の距離や形を測する「LiDAR」というシステムを航空測量で使っているが、多用途に使える技術であり、高度化に向けた研究が進んでいる。当社も今後の事業に生かそうと注目している。マッピングソフトや計測機器の開発も進めており、途上国からも引き合いがある。目的に応じて、ドローンや地上を用いたLiDAR 測量も行う。

国内・海外部門一体で社員育成
――海外事業で重点を置きたい地域・分野を教えてください。

 地域としては、東南アジアや南アジア、アフリカでJICA 関連の事業に注力しており、今後も引き続き注力していく。なかでも、ミャンマーやバングラ、そして、ケニア、モザンビークなど実績のある国を中心に重点的に展開していきたい。分野としては、海外での実績ある地理空間情報や地球環境保全分野に加え、エネルギーやアセットなど国内技術の海外展開も推進しい。また、紛争や自然災害からの復興支援についても当社の技術力が貢献できるところだと見ている。さらに、国内外の多様なパートナーと協働して民間ビジネスへの挑戦も行っていきたい。

――人材育成など今後の展望は。
 現在はグループ企業を含めて1,600 人ほどの社員がいる。海外業務を円滑に行える人材の採用・育成が目下の課題だが、簡単な道のりではない。外国語のスキルや、海外でのビジネス経験に基づいた視点は一朝一夕では身に付かないからだ。
 そこで、今期から海外事業は分野横断的に実施するよう位置づけ、国内部門、海外部門の区別なく、事業として取り組んでいける組織体制とした。社員たちが技術力やグローバルな視点を吸収し、世界で活躍するのが楽しみである。そのためには海外における安全配慮や、事業実施上のリスク管理にも対応し、海外事業を拡げやすい環境にしていく。当社の経営理念をベースとしつつ、新たな挑戦も積極的に行っていき、100 年続く企業を目指す。


アジア航測(株)の主要プロジェクトは、下記PDFからご覧いだだけます。


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本記事は国際開発ジャーナル2024年2月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

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