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#3 「モーツァルトの子守唄」は、モーツァルトの作品ではない? | 音楽おもしろ豆知識

連載「明日誰かに話したくなる音楽おもしろ豆知識」
音楽がより身近に感じられる、ちょっとした雑学やおもしろエピソードをお届けします。


「モーツァルトの子守唄」
正式タイトルは、
 "Schlafe, mein Prinzchen, schlaf' ein(眠れ、私の王子さま、眠ってね。)"
 (邦題:ねむれよい子よ庭や牧場に)

ブラームス、シューベルトの作品と並び「世界三大子守唄」とも呼ばれる作品です。
作詞者は、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ゴッター Friedrich Wilhelm Gotter
そして、作曲者は当然、かの有名なヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト…ではありません!

実は「モーツァルトの子守唄」と呼ばれている作品は、モーツァルトの作品ではないらしいのです。
ではなぜモーツァルトの作品と考えられていたのでしょうか?
そして真の作曲者は誰なのでしょうか?



モーツァルトの遺品の中に、「子守唄」の楽譜を発見!

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトWolfgang Amadeus Mozart(1756-1791)は、オーストリアで活躍した、古典派を代表する音楽家です。
幼児期より天才キッズとして活躍し、オペラや交響曲など、あらゆる分野において名曲を残しました。

西洋音楽界きっての有名人、モーツァルト。

モーツァルトが亡くなった後、遺品の中から"子守唄"の楽譜が見つかります。
モーツァルトの妻コンスタンツェは、当然のように、この楽譜もモーツァルトが作曲したものだろうと考えたでしょう。

1829年、ニッセンという外交官&伝記作家(コンスタンツェの再婚相手)の書いた、最古のモーツァルトの伝記「モーツァルト伝」が出版されました。
この「モーツァルト伝」の付録部分に"子守唄"が記載されたことにより、「モーツァルトの子守唄」として世間に知られることになります。
ケッヘルによる作品番号(K.350)も付けられていました。

モーツァルトの妻、コンスタンツェ。旧姓はウェーバーで、オペラ「魔弾の射手」などで有名な作曲家ウェーバーの従姉妹。
実はモーツァルトは、結婚前はコンスタンツェのお姉さんに片想いしていたそうです。

実は「フリースさん(医学博士 兼 作曲家)」の作品でした!

ベルンハルト・フリースBernhard Fliesは、1770年頃に生まれたベルリンの医師です。
他の作品は知られていません。

歌曲研究家が、図書館で1795年頃の曲集の中に「フリース作曲」と書かれた資料を発見したことにより、「モーツァルトの作品であるとされていた"子守唄"、実はフリースの作品だった説」が浮上しました。

"子守唄"の楽譜。作曲者としてフリースの名前が記されています。
お医者さん作った子守唄、と言われると、なんとなく身体に効果がありそうな気も…。

研究の結果、「作曲者はフリース」とされるようになった"子守唄"。
ですが、「モーツァルトの子守唄」という通称があまりに有名になっていたので、クレジットとして
「モーツァルトの子守唄(フリースの子守唄)」という、なかなかややこしい表記が用いられることが大変多いです。(例えばこんな感じ↓)

Lulla Music 1:さみしんぼモンスター
Tr.3 モーツァルト: 子守歌 (フリースの子守歌) ー 井出 音 研究所 & 松岡美弥子


真の作曲者は「フライシュマンさん(官房長官 兼 作曲家)」ぽい?

新たな発見により、"子守唄"の真の作曲者はフリースで決まり…かと思われていました。
ところが、「真の作曲者候補」として、新たにフライシュマンという人物が浮上します。

フリードリヒ・フライシュマン Friedrich Fleischmann(1766-1798)は、かつてドイツ中部に存在したザクセン=マイニンゲン公国の内閣官房長官  兼 作曲家です。

フライシュマンは幼い頃からピアノ奏者として活動し、作曲をはじめました。
音楽を学んだ後に法律を学び、ザクセン=マイニンゲン公国ゲオルグ一世のもとで内閣官房長官として務め、また宮廷音楽家としても活動しました。わずか32歳にしてこの世を去っています。

最近の研究では「フリースではなく、フライシュマンのバージョンがオリジナルである可能性が高い」と言われているそうです。

フライシュマン(内閣官房長官マイニンゲン宮廷楽団の音楽家作曲家音楽理論家
政治家さんが作った子守唄、と言われると、なんとなくストレスに効きそうな気も…。

モーツァルトの子守唄(フリースの子守唄)※たぶんフライシュマン作曲

今回は、
"Schlafe, mein Prinzchen, schlaf' ein"
通称:モーツァルトの子守唄(フリースの子守唄)※たぶんフライシュマン作曲

についての解説をお届けいたしました。
真の作曲者(と思われる方々)は、お二人とも音楽以外にもお仕事を持つ多才な方でした。

(ちなみに、この曲の日本語訳詞「ねむれよい子よ庭や牧場に」を手がけられた堀内敬三さん、作曲家や音楽評論家として活躍されましたが、MIT(マサチューセッツ工科大学)で機械工学の修士号を取得されたという、これまた多才な経歴をお持ちの方です。)

そんなわけで、「モーツァルトの子守唄(フリースの子守唄)※たぶんフライシュマン作曲」
多方面において才能を発揮したいときの縁起担ぎにもおすすめの1曲…かもしれません。


松岡美弥子 Miyako Matsuoka
作曲家、ピアニスト

東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽文化学専攻音楽音響創造領域修了。自在な表現法を武器に、作編曲家としてゲーム、アニメ、映画、舞台等の音楽やアーティストへの楽曲提供などを中心に幅広いジャンルで活動する。
ピアニスト・キーボーディストとして、様々なアーティストのライブサポートやレコーディングに参加している。

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