ほぼ怖いしか言ってない『関心領域』の感想
※映画の内容に触れながら書いてます。未見の方はご注意ください。
関心領域
監督:ジョナサン·グレイザー
日本公開:2024年05月24日
裕福で幸福なドイツ人一家の暮らしている家の隣にはアウシュヴィッツ強制収容所。強制収容所と壁1枚隔てた場所で平和に生活している家族の物語。
なにそれ怖い
ホラー映画を観に行く気持ちで映画館に赴きました。結果的にホラー映画と言っても差し支えないくらい怖かったです。
アウシュヴィッツ強制収容所が題材の映画ということは、知識がないと観れないのでは…というとそんな事もなく
ということを抑えておけば十分怖がれます。
(もちろん知識があればあるだけ内容への解像度が上がる映画ではあります。)
ご機嫌な暮らしぶりが怖い
まず主人公であるヘス家の暮らしがとてもご機嫌です。
大きな家、プール付きの広い庭には色とりどりの花が咲き誇り、家庭菜園としてはかなり本格的な畑に、温室も備えているという充実ぶり。休日には近くの川で泳いだり木イチゴを摘んだりして。ペットの大型犬が家族や使用人の後をちょこまか付いてきたと思ったら庭を駆け回ったり(超かわいい)。
理想的な暮らしの1つの頂点と言っても過言ではない毎日を送る一家の生活の中に、銃声、叫び声、怒鳴り声などの不穏な音がノイズかのように混ざって終始聞こえています。そしてそれらの音をまるで聞こえていないかのように振る舞う一家(主に夫婦)が怖い。
夜になると消灯したヘス家の室内が時折赤く染まります。
強制収容所では死骸を一度に大量に燃やすボイラーが絶えず稼働していて、煙突から時折上がる炎の明かりが隣のヘス家へ差し込むためでした。
そんな禍々しい炎の明かりを分厚いカーテンなどで遮断するでもなく、そんなものは無いかのように明かりが入り込んでくるままにしているヘス家。怖い。
まあ、あの不穏な音を無視できるのだから炎の明かりにも無反応なのは当然かと思う。
が、中盤のある場面にきてやっぱりヘス家の人々のどうかしてる具合が想像以上なのでは?と思い直しました。
その場面は、収容所から少し離れた場所に住んでいる人達の様子を描いた場面で、繕い物か何かをしている女性が突如怪訝な顔をし窓のカーテンを開け収容所の煙突から上がる炎を見留めると慌てて家中の窓を閉め洗濯物を取り込むという場面。これは死体を燃やした時に出る臭い(燃える人間の臭いもしくは燃料とかの臭い?)が洗濯物や部屋に着かないようにしているのか?と思った。
ある程度離れた距離で臭うのだから隣のヘス家に立ち込める臭いは相当なものに違いない。
そうなるとヘス家を訪れたヘス夫人の母親が時折咳き込んでいたのは臭いのせいなのかと思えてくる。そしてそれは長期滞在するつもりだった予定を短期間で切り上げ、置き手紙1枚を残して娘や孫に挨拶をせず帰るレベル(臭いだけが原因じゃないと思うけど)に臭いということなのだろうか。
そんなとてつもない臭いをまるで無いものかのように振る舞えるヘス家の人々が怖い。
とにかく音が怖い
凄惨な場面は画面の外に排除されて(でも時々酷さの残滓みたいのだけを見せてくる。そこも怖い。)素敵な景色とか家族の団らんみたいな穏やかな映像に、生活音に混ざって不穏な音がずっと聞こえている。最初は聞こえてくる音が逐一何なのか注意を払って観ている筈だったのに次第に大きな音以外は気にしなくなっている…ということに終盤に突然挟まってくる現在のアウシュヴィッツ強制収容所の博物館の、呼吸をするのも憚られそうな静寂の中、掃除の音だけがしている映像で気付きました。知らず知らずの内に色々な音が鳴っている状態に順応していたんだと思うと怖い。
自分もヘス家人々となんら変わりないことを思い知らされて怖い
薄々気付いていたことではあったが、聞こえている筈の音を聞かないことに慣れることができるのだから、散々怖いとかどうかしているとか言って遠ざけているヘス家の人々と自分はなんら変わりがないことになる。嫌すぎる。
どうしたらヘス家の人々のように無関心にならずにいれるのかを考えたときTBSラジオの番組『東京ポッド許可局』の「なぜニュースを見るのか論」を思い出した。
下記の記事に「なぜニュースを見るのか論」の内容に触れられている部分があるので引用します。
こういう態度でいれば無関心にならずにいれるのかなと思いました。
自分のできる範囲でニュースを摂取していこうと思いました。(小学生の作文)
しかし↑の記事で話題になっている相談者への回答がまんまヘス家って感じで映画の中で描かれている恐怖は現実の現代でも健在だということを思い知らされた気分です。
どうでもいい感想
ヘスが川で釣りしてる時に着てた、胸にでっかく親衛隊のマークが入ったランニングが馬鹿っぽすぎて脱力してしまった。あれって本当に実在していたんだろうか。
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