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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー52
「子供妖怪 三鬼とこん」
工房に行くと中に妖鬼と何人かの縊鬼の姿が見えた。
ステージはどうやら工房とギャラリーの横に作るようだ。
向井が部屋に入ると、
小鬼ともう一匹小さな白狐の姿が見えた。
一生懸命、袋に何かを詰めている。
向井がその様子を見ていると妖鬼がやってきた。
「向井さん。ちょっと聞きたいことがあって」
「その前にあのちびっ子は何をやっているんですか? 」
「ああ、三鬼とこんね」
妖鬼が振り返った。
「なんでも作りたいものがあるから、
かんなくずが欲しいっていうんで、
片付けついでに手伝わせてるんだよ」
「かんなくず? 」
「そう。かんなくず。
妖怪施設のちびちゃんたちの間では流行っているらしいよ。
サロンにかんなくずアートの作家さんが来たでしょう。
彼女にブーケ作りを教わっててさ。楽しいみたいで。
しかもヒノキの香りがいいんだってさ。
生意気だろ? 」
妖鬼が笑った。
「へえ~」
向井もちょっと意外な展開に驚いた。
「冥王の部屋にあるランプシェード。
あれもかんなくずなんだって。
その作家さんにお願いして作ってもらったらしいよ」
「安達君と遊んでいる間にも、
いろんな事やってるんですね。あの人は」
「あははは。冥王だからね。でさ~」
妖鬼が話し出した。
「ステージの大きさをどうするかで悩んでて。
発表会となったら参加者だけじゃなく、
みんな見に来るよね。
さっき冥王が来て劇場みたいなのが欲しいってさ。
好き勝手に言いたいことだけ言って帰っていった」
「あの人は思いつくままに行動してますからね。
でもそうなると小ホールくらいはないと無理かな。
舞台も少し大きめに作ってもらわないと」
「う~ん。冥界の空間をちょっと広げるか」
「できますか? 」
「多少なら大丈夫だろう。
そうすれば百五十人くらいは入るから」
「だったらそれでお願いします」
「分かった。設計してみるよ」
妖鬼はそれだけ言うと、仕事に向かった。
向井は楽しそうなチビ達を見て近づくと話しかけた。
「君たちは、
かんなくずアートを作っているんだって? 」
「むかい~」
三鬼が嬉しそうに笑うと抱きついてきた。
早紀に拾われた小鬼は、
人間で言うとまだ三歳くらいだそうで、
施設で好きなことをさせているらしい。
三鬼の名前は冥王が付けた。
悪霊から逃げ延びた幸運にあやかって、
三の数字と助けた早紀の名前を入れて、
三鬼でミツキ。
本人も名前をもらえたことに喜んでいた。
「こっちの子はお友達かな? 」
向井が聞くと、
「こん」
小さな白狐は恥ずかしそうに、
うつむき加減で名前を言った。
「可愛い名前だね」
向井は笑顔になって、
三鬼とこんの間に胡坐を組むように腰を下ろした。
こんは白狐なので、おそらく眷属なのだろう。
三鬼は向井の膝に座ると、
「こんもね~サキちゃんがつれてきたんだよ」
嬉しそうに説明した。
「そうなんだ」
「めいおうがよんでくれたえほんのキツネさんと、
おなじなまえなんだよね~」
「冥王は絵本を読んでくれるの? 」
「うん。
ほかにもいっしょにぬりえとかパズルもするけど、
ゲームはずるするんだ」
「それは酷いね」
向井はそういうと三鬼とこんを見て、
「かんなくずアートができたら、
俺にも見せてくれる? 」
と言った。
「うん。
こんといっしょにカワイイブーケをつくるんだ。
ね~」
「めいおうもつくってるよ。
なんだかわからないけど」
二人は顔を見合わせてくすくす笑った。
「そう」
向井が楽しそうにしていると妖鬼が近づいてきた。
「ほら、お前らかんなくず拾ったら、
工房行くんだろう? 」
「あっ、そうだ」
三鬼は向井の膝から立ち上がると、
こんと一緒に袋を取りに行った。
「向井さんはチビに人気だね。
安達君や牧野も含めてね」
「安達君たちにチビなんて言ったら怒るから、
発言には気をつけてね」
向井が苦笑いを浮かべて立ち上がった。
「ハハハ」
妖鬼は声をたてて笑うと、
三鬼とこんが「またねー」と手を振って、
部屋を出て行った。
「あいつらは片付けと言いながら、
部屋を散らかしてるんだよな」
散らばるかんなくずを見て妖鬼がため息をついた。
「まあ、子供ですから」
「こんはさ。親が眷属みたいなんだけど、
どこかで迷子になったらしくて、
早紀ちゃんが拾ってきたんだよ。
冥王が言うには、
中央で拾ったんなら地域は王子じゃないかって。
親も分からないし、
放っておくわけにもいかないからね。
三鬼も友達が出来て嬉しいみたいで、
ずっと一緒にいるよ」
「そうですか。
妖怪にも楽しい子供時代はあるんですよね」
「そりゃそうでしょ。
子供なんて人も妖怪も変わんないよ」
妖鬼はそういって笑うと仕事に戻っていった。
向井も立ち上がると工房を出た。
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