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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー29ー
「新たな妖怪 千乃」
向井が死神課を出るのと同時にトリアがやってきた。
「向井君、仕事は無事終わったよ。
山川はいつものカフェテラスで虎獅狼と一緒だから」
「ご苦労様でした」
「あ~疲れた。メンテしてこよう」
トリアが両手をグルグル回すと、
「あっ、そうだ。松田さんの漫画。
あれ、面白かったよ。
多分、連載決まるんじゃないかな」
「そうですか」
「もし、連載となると……
ちょっとまずい事になるかも? 」
トリアが首を傾けた。
何か嫌な予感が……
向井が眉を顰めると、
「松田さんが連載になったら、
暫く山川に専属アシをしてもらいたいって」
「暫くって、どれくらい? 」
「さぁ? 山川も一応、
事務所に聞いてみると言ってたけど、
話も面白いし、
描きたいっていうんじゃないかなぁ~」
「はぁ……」
向井は疲れの溜まった長い溜息をついた。
「さっきそこの入り口付近に冥王がいたので……」
「そのこと話した? 」
「話したよ。だって、
漫画の続きを教えてくれってうるさいし、
かといって仕事内容を話せないでしょ。
だから誤魔化しながらちょこっと……?」
「で、何か言ってた? 」
「本人が描きたいならやらせてもいいみたいな……?
ほら、冥王あの漫画にハマってるでしょう」
これじゃ、当分再生しそうにないな………
「ふぅ……分かりました」
「そんな顔しないでよ。
私だって当分憑依されることになるんだからさ。
向井君もファイト♪ 」
トリアはそういって笑うと、
その場を去っていった。
――――――――
向井はいつものアーケードに来ると葵の姿を探した。
みると虎獅狼の他にあらたな妖怪の姿があった。
恐らく犬鳳凰だろう。
向井は額に手を置くと、
ゆっくり彼らに近づいて行った。
「それでその続きはどうなんだ? 」
「それがね~」
「山川さん、内容をむやみに教えてはいけませんよ。
契約に触れてしまいます」
葵が漫画の続きを、
虎獅狼たちと話しているのを聞いて向井が釘を刺した。
「おぉ、向井か」
虎獅狼が振り返った。
「まあ、いいじゃない。相手は妖怪だし、
外に漏れることはないんだからさぁ~」
「いけません。トリアさんだって冥王に言いませんでしたよ」
「…………」
むくれる葵に、
「お前は役人か? 」
虎獅狼が言った。
「なんとでも言ってください」
向井がそういったところで、
「へぇ~これが噂の向井殿? 」
孔雀のような派手さを持った鶏が、
品定めするように見て笑った。
「男前じゃないの」
「それはどうも」
怪しい三人が集まって、
いったい何をやっているんだか。
「で、俺のことを噂していた君の名前を聞いてもいいですか?」
「私? どうしようかなぁ~」
妖怪は口から炎を吐きながら、
周囲に狐火のようなものを揺らした。
向井はそれを指ではじき消していく。
「まあ、酷い」
「もうその辺でいいだろう? 」
虎獅狼がいい、
「こいつは婆娑婆娑の千乃だ。
俺と葵が旅先で知り合った仲間だ。
お友達ってやつか? 」
とにやりとした。
「山川さんは妖怪になりたいんですか? 」
「まあ、あなた妖怪と人を差別するの?
ジェンダーの時代に古臭い事」
千乃がつまらなそうに言った。
「差別ではなく区別してるんです。
きちんとお互いを理解したうえで、
お友達でいるなら構いませんよ」
「まあまあ。
それよりお前は漫画の続きが気にならんのか? 」
「虎獅狼も読んだんですか? 」
「人間とは面白いことを考えると思ってな。
この世は魑魅魍魎であふれておるのに、
書物でもそんな話が好きとは愉快じゃないか? 」
妖怪に魑魅魍魎と言われるとは……
向井は思わず吹き出した。
「そうだ。トリアさんから聞いたんですけど、
アシの仕事を松田さんからお願いされているそうですね」
「そうなのよ~担当の人が来てね。
とりあえず前後編で続きを描いて、
人気があるなら連載にするって言ってたんだよね」
「俺が思うにこれはヒットの予感がするぞ」
虎獅狼が自信ありげな顔をする。
「で、さっきサロンでトリアに会ったら、
冥王もOKしてるっていうし、
連載決まったら、しばらくアシの仕事継続するよ」
「するよ…………って、山川さんサロンにいたんですか? 」
「ん~向井さんが来る少し前にね。
そしたら、花村さんに会って。
あの人まだ成仏してなかったんだね。
驚いちゃった」
葵がケラケラ笑った。
「山川さんも人の事言えないでしょ」
「そりゃそうだ。でね、ちょっと耳にしたんだけど、
冥界にギャラリーできるってホント? 」
「ほお~それは俺にも初耳だぞ」
「ギャラリーなんて素敵ね。
私達が見ることってできないのかしら」
虎獅狼と千乃も楽しそうに向井を見た。
「あのですね。冥界は死人が行くところですよ」
「冥界には妖怪の施設があるっていうじゃないか。
俺は使役になるのは嫌だが、
妖怪が入っても問題ないんだろう? 」
「だったら、私だってみたいわ~」
「…………ふぅ、とにかくギャラリーは、
少し先の話になると思います。
まずは工房で作品を作ってもらうのが先決ですから」
「そうだ。私の作品も飾ってもらおうかな」
「何か描きたいものでもあるんですか? 」
「ほら、虎獅狼とか千乃とか、
妖怪のイラストなんてよくない? 」
「ほぉ~俺達をモデルに」
「素敵~♪ 」
三人はワイワイ賑やかに盛り上がっている。
確かに本物の妖怪を目の前に、
絵が描けることなんてそうそうないからな。
向井もギャラリーのイメージが、
頭の中で少しずつ完成されてくると、
三人に影響されたのかワクワクしてきた。
「俺はいったん冥界に戻るので、
あまり悪さをしないように。
あっそうだ。
松田さんとの契約は冥王からの許可が正式に通ったら、
相手と連絡を取った後に手続しますから」
向井はそれだけ言うとその場を去った。
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