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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー45

「ミニチュア作り」

工房の前を通り過ぎようとしてふと中をのぞくと、
冥王と安達が真剣に何かを製作している姿が見えた。

安達は冥王といることが多い。

なにをしているんだ? 

向井は気になり室内に入った。

「二人して何を作っているんですか? 」

冥王と安達が同時に顔を上げた。

「ミニチュアですよ」

見ると冥王は机を安達はソファーを作っていた。

「僕がここで制作しているのを見て、
お二人が自分も作りたいって言うのでお教えしてるんです」

向井達が話していると奥から三十代の男性霊がやってきた。

彼はミニチュア・ドールハウス作家の十朱将臣。

サロンにきてギャラリーを目にした後、
自分もここで冥界のドールハウスを作りたいと言い、
派遣登録後にこの工房で作品を作っていた。

「二人が邪魔しているんじゃなければいいんですけど」

「失敬な。私は真剣に作っているんですよ」

「俺だってこれが出来たら部屋も作って、
ギャラリーに飾ってもらうんだ」

「そうですよ。ね~」

冥王と安達が二人で顔を見合わせ楽しそうに笑った。

「迷惑なら追い出してもいいですから」

向井が言うと、

「とんでもない。
お二人の作るものもなかなか出来がいいですよ。
既にミニチュアの小物も二個目ですから。
このままいけばドールハウスが作れますよ」

「ほら、聞きましたか? 」

得意げな冥王を無視して向井は十朱の作品を見た。

「これ、三途の川ですか? 
美しいですね~
十朱さんの目にはこのような景色で見えているんですね」

あまりに精巧な作りに目が奪われた。

「僕もここのギャラリーを見るまでは、
作りたいなんて思いもしませんでした。
死んでしまったしもうどうでもいいやって」

十朱は作った小さな石をピンセットでつまむと、
それを川辺に置いた。

「でも、
このギャラリーの全てが死人の作品なんだって言われて、
心が奪われたんです。
作ったものを飾ってもらえるなんて夢みたいじゃないですか。
冥界にきてこれを見たら誰でも最後に大作を作ってから、
来世に行きたいって思いますよ」

十朱が目を輝かせながら話すのを見て、
冥王も嬉しそうに微笑んだ。

「僕が今作っている作品は出来上がるとちょっと、
飾る場所が必要になっちゃいます」

「心配しなくても大丈夫ですよ。
専門の大工がいるので、
作品に合わせて作り棚を製作してくれます」

「そうなんですか。
じゃあ、思いっきり作れますね。安心しました」

十朱はそういうと椅子に座り楽しそうに作業を始めた。

「冥王はお仕事の方はいいんですか? 」

「うん? 一応一週間分の魂は、
霊弾砲につめてあるので大丈夫です」

霊弾砲とは生まれてくる子供に魂を入れ込むものだ。

以前は手動だったので冥王や死神が、
霊弾砲のそばを離れられなかった。

今は自動で生まれる子供に魂を入れることができる。

なので、冥王も趣味を楽しむ時間があるわけだ。

「連打で入れられるのって便利ですね~
死産になってしまう確率も減りましたし、
自動標準で誤りがないないのも助かります。
研究・開発室には感謝です」

自分で標準を合わせて魂を入れ込んでいた時には、
少しのずれで死産になってしまうことがあった。

それが減少しただけでもありがたい限りだ。

そんな話をしているとアラームが響いた。

「○○町にて、悪霊が巨大化。除去課は出動中。
手の空いているものは現場へ直行してください」

仮眠をとろうとしてたのに………

向井は大きく息を吐くと安達に声をかけた。

「ほら、行きますよ」

「もう少しで出来あがるのに~
これ絶対に触らないでよ!! 」

安達がじ~っと冥王を見る。

「この私を疑うとは誰が教育してるんですかね」

冥王がちらりと向井を見る。

「俺のせいですか? 違うでしょう」

「もいいから、早くいってらっしゃい」

冥王が手を振るのを安達は疑り深い目で睨みながら、
部屋を出て行った。

向井も行きかけたところで

「冥王、安達君の作品には手を触れないように」

入り口から顔をのぞかせ冥王の手を止めた。

「本当に油断も隙もないですね」

「分かってます。イタズラしません」

冥王が両手を上げた。

その横で十朱が二人のやり取りを笑いながら聞いていた。

向井が何も言わずに冥王を見る。

「…………」

「神に誓って何もしません」

「冥王が言っても意味がないですけどね」

向井はそういって、下界へ下りていった。


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八雲翔
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