
【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー46
「安達 倒れる」
この日は駅近くのアリーナで、
大型イベントが開催されていることもあり、
人の流れに霊も集まっていた。
ただの浮遊霊なので光の渦で冥界へ運ばれたものはいいが、
霊の数が多いと全てが上昇してくれず、
そこに悪霊も集まってくる。
イベント会場などの混雑する場所で起こる人酔いには、
自律神経の他にも霊現象が関係することもある。
向井達が会場付近に来ると、
佐久間と田所が結界をはっていた。
牧野が黒い塊になる前に冥界札で除去しながら、
エナトも指で円を描き悪霊を捕縛していた。
「凄い数ですね」
向井が佐久間に言うと、
「大型イベントは仕方がないですね。
この裏でも悪霊が増えているようなのでお願いできますか? 」
「分かりました。安達君? 」
隣に立つ安達の様子が少しおかしい。
「どうしました? 」
「あっ、何でもない」
それだけ言うと走り出した。
向井もあわてて後を追う。
アリーナから少し離れた裏道は人通りは少ないが、
霊に引き寄せられてか悪霊も集まってきていた。
二人がその場所へ行くと早紀が霊銃を使い、
悪霊を冥界へと送っていた。
「やっと来た~」
「遅れて悪いね」
「この霊銃、軽くて使いやすいけど、
霊玉を装填できる数が少なすぎて、
すぐに打ち止めになっちゃう」
「プロトタイプⅡ型なんですけど、
まだ改良の余地はありそうですね」
向井がそういったところで安達が突然気を失った。
「えっ? 」
その場にいた向井と早紀は、
一瞬何が起こったのか分からずに動きが止まった。
向井は慌てて結界を張り安達を支えた。
瞳は開いているものの意識がない。
「安達君!! 」
軽くゆするが反応がない。
「なに? どうしたの? 」
早紀も驚いて安達の傍に跪く。
「ちょっと様子がおかしいとは思っていたんだけど、
これは少し異常ですね」
「向井君、悪霊が大きくなってる。
結界持たないよ~」
早紀が霊銃に霊玉を装填する。
「早紀ちゃん、あの悪霊の中心に照準合わせて」
「合わせたよ」
早紀が悪霊に霊銃を向けた。
「俺が合図したら撃ってください」
「分かった」
向井が何かを呟くと、
それは球体となり光り輝いた。
「放って!! 」
早紀が発射する霊玉に向井の言霊の球体が被さる。
弾は結界を突き破った悪霊に真っ向から激しくぶち当たると、
爆発のような衝撃になり一瞬で燃え上がり消えた。
「凄い……向井君、そんなことできるの? 」
驚く早紀に、
「とりあえず今のうちに冥界に戻ろう」
向井が安達を抱きかかえて走り出した。
早紀が辺りを警戒しながら後方からついてくる。
「あっ、次の霊が集まり始めた。まずい」
早紀が霊銃を撃ちながら、
身体を丸めたところで眷属が盾になった。
飛翔する鷹の姿が見えた。
「ピ~~~~キャ~~~~!! 」
とひと鳴きすると大きく羽ばたく。
その風圧で一瞬にして悪霊が塵となって消えた。
そのまま鷹は羽ばたきを続け、
空間に冥界へのゲートを開ける。
安達を担いだ向井と早紀はその空間を飛び越え姿を消した。
――――――――
冥界につくと死神課の前で安達を下した。
「安達君!! 」
向井が声をかける。
特例が病気になることはないので、
倒れる原因は他にあるはずだ。
向井が安達に触れてふと表情を硬くした。
「どうしたんですか? 」
死神達が集まってきた。
「医務室に連絡してくる」
早紀がそういって歩き出すのを向井が止めた。
「早紀ちゃん、ちょっと待って。
工房に冥王がいるはずだから呼んできて」
「えっ? 冥王? 」
「そう。これは冥王じゃないとダメな気がする」
向井はそういい、
気を失ったままの安達を静かに床に寝かせた。
「息してますよね」
オクトが横にしゃがみこみ、安達の体に触れた。
「!! 熱い……確かに少し異常ですね」
向井は安達が装着しているリングが消えかかっているのを感じ、
どういうことだ? あの時何があった?
倒れた瞬間を思い返していた。
「どうした? 安達君が倒れたって? 」
冥王はやってくると安達の横で、
しゃがむ姿勢になった。
「冥王。安達君のリングが消滅しかかってます」
向井が小声で言う。
「オクト!! 」
「はい」
「開発室長に例のものを、
私の部屋まで運んでくるように言ってくれ」
「分かりました」
オクトがその場を離れる。
「安達君はどうなってるの? 」
早紀が少し狼狽えた様子で見ていた。
「疲れがたまって、
霊に対して制御ができなくなっているんだろう。
大丈夫だ。君も疲れてるだろうから少し休憩しなさい」
冥王は立ち上がると早紀の肩を叩き、
向井を見下ろす形で言った。
「安達君を連れて部屋に来てください」
向井は冥王の真剣な表情に頷くと、
安達を静かに抱き上げた。
二人が立ち去る姿を見ながら、
「私、冥王の顔を間近で初めて見た……
イケオジ? カワオジ? ダンディ?
冥王っていい男じゃん。ねっ、ねっ」
早紀は興奮したように近くにいたエルフの肩を叩いた。
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