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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー33ー

「ジュエリーデザイナー 美紀まり子」

美紀まり子。

世界的なジュエリーデザイナーで、
有名宝石博物館にも飾られているほどの作家だ。

居眠り運転の自動車事故に巻き込まれ即死。

彼女の残したデザイン画は美術館に飾られていた。

亡くなった後、

「このデザインの作品が作れたら、
もう思い残すことはないわ」

そういってサロンに来たものの死神課から、

「あの人の求めているものはすべて希少石で、
手に入ったとしても、
彼女の求めている色が見つからないんですよ。
しかも価格一つが高くて……」

と不平不満が出ていた。

「実はこれなんですけど…」

デザインが素晴らしいのは向井でも見ればわかる。

もうこうなると貴重な美術品だな。

「スイートホーム鉱山のロードクロサイトが欲しいの。
できれば北海道産も。
前から言ってるんだけどいつも色が違うの。
この作品にはこの色じゃないとダメなのよ。
向井さんも分かるでしょ? 」

デザイン画の色では分かりづらいが、
赤とピンクの中間で発色の良い、
薔薇を感じさせるピンクのようだ。

「宝石は価格も高いですからね。
一応死神課には言っておきますから」

「お願いね」

まり子は憂いを帯びた表情でいうと、
花村と何やら仲睦まじい様子で、
デザイン画を見ながら話を始めた。

向井はそんな二人の様子を見ながら、
サロンを出ようと体の向きを変えた。

出入り口には、
二人を盗み見ている冥王と河原の姿がある。

何をやっているんだか……

冥界ゴシップならあの二人が一番詳しそうだな。

向井は二人に近づくと、

「仕事しなくていいんですか? 」

といい、
二人はニヤニヤ笑いながら、

それぞれの場所――――

冥王は執務室へ、
河原は図書室へと歩いて行った。

身体があるかないか以外、
冥界も下界も何ら変わりないな。

向井はそんなことを思いながら、
作業中の工房へと入っていった。

サロンの丁度真横に作られている工房は、
幾つかのブースに分かれ、
多くの機材が揃っている。

かなり出来上がってきてるのではないのか。

向井が室内を歩きながら確認していると、
冥界大工の棟梁がやってきた。

「かなり立派な工房ですね。
これならギャラリーも期待しちゃいます」

向井が深く感じ入った表情で言った。

「これでも人間に取りついていた時には、
江戸で一番の大工だったからね」

妖艶な鬼というのも珍しいが、
彼にはその言葉がピッタリはまる容姿だった。

元々彼は縊鬼いつきであり、
以前は冥界の霊の人口も一定数に定められていた。

それを現冥王は廃止し、
再生を効率よく進ませる現在の形に構築したという。

抑々縊鬼は死者が生まれ変わるには、
新たな死者が冥界に来なければ生まれ変われないという、
面倒なシステムの上にいた鬼である。

その為人間に取りつき自決させ、
その霊魂と入れ替わりに冥界にいた霊が再生されていた。

現冥王は効率が悪いうえ恨みを買うだけと、
この二百年で今の形へと築き上げていった。

ちゃらんぽらんに見えて、
冥界の事を一番に考えているのは間違いなく冥王である。

冥界大工はその縊鬼の集団と言ってもいい。

「妖鬼さんは作業が丁寧だって評判いいですよ」

「まあな、大工歴は二百年以上だからね~」

妖鬼は笑った。

図書室や食堂も冥界大工が作っていた。

よく死体を前に家族や友人が言う、

「なぜ自殺したのか分からない」

これは縊鬼が関係していることも多い。

冥王の死亡で、
新たな冥王が派遣されることでもわかるように、
冥界とは別にもう一つの世界が存在する。

そこから今でも縊鬼が飛ばされてくることがある。

そのたびに調査室は縊鬼調査隊を向かわせ、
事件性を捜査しているので、
縊鬼による死亡事件は現冥王になってからは少なくなっていた。

それでも全くないとは言えない。

「このあとはサロンにいる者たちに見学してもらって、
どこをどうしてほしいのか意見を聞かないとね」

妖鬼はそういうと、

「ああ、そうだ。
こことギャラリーにも霊電通すから牧野に言っといて」

霊電力問題があった…………

「はあ…………」

向井の肩を落とす姿に妖鬼が笑った。

「そんなに落胆しないでよ。
悪霊なんてうじゃうじゃいるんだからさ」

「そうはいっても、集めるのは大変なんですよ。
牧野君の不機嫌な顔が思い浮かぶな…………」

「まあ、頑張って」

妖鬼は向井の肩をポンと叩くと仕事に戻っていった。


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八雲翔
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