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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー27ー
「くるみのダンス」
トレーニングルームはサロンから更に離れた死神課の先にある。
死神が体のメンテの為にトレーニングする場所だ。
奥にはそれぞれの死神の自室が設けられているので、
身体のメンテ以外ではそこか休憩室にいることが多い。
くるみは室内に通され、
圧倒されたように他の死神たちを見ていた。
「凄い……ここって死んだ人たちが来るところなんだよね」
「ハハハ。確かに死人ばかリがいる場所には思えないよね」
向井が笑いながら言うと、
部屋の奥から二十代くらいの男性がやってきた。
彼もデスクワーク担当の死神で、
憑依される死神のメンテとトレーニングを担当していた。
「こんにちは。僕はエルフです」
くるみは小さく頭を下げた。
「初めての憑依は君にとっても違和感があると思うので、
馴染むまで僕がトレーナーとしてつきます。
最初は体が浮いた感じだけど少しずつ馴染んで、
自分の意思で動かせるようになります」
「あの、この人は俺が中にいる間どうなってるの? 」
「核……君達でいう魂の中に入っています。
君は体を借りているだけだからね。
だから、話していることも行動も全て分かっています。
君が意図しない行動をとろうとすると核に取り込まれて、
再生以前に消されてしまうので、
身体をお借りしているという事は忘れないでください」
「分かった」
くるみは頷いた。
「じゃあ、憑依してみましょうか」
エルフがいい、
ティンは軽く体を動かすとくるみの手を取った。
「わっ……!! 」
くるみの体がスッと吸い込まれてティンの中に入っていった。
「どう? 」
向井が聞くと、
「ちょっと、ムズムズする感じ……」
「じゃあ、軽く体を動かしてみて」
エルフに言われてくるみは手足を動かした。
「……軽く動く。凄い……」
“それは俺が毎日トレーニングしてるからです”
「なに? 頭の中で声がする!! 」
「大丈夫。ティンが君に話しかけてるだけだから。
この体にいる間ティンは核の中にいるので、
たまに声が聞こえてくることもありますが、
君のダンスを邪魔することはないです」
「体が馴染んでるみたいだし、軽く踊ってみる? 」
向井がいうと、エルフもティンの様子を見て、
「くるみ君との相性もいいみたいですね」
「くるみモデルのダンススニーカーも用意しておいたし、
足に馴染ませたいでしょ? 」
向井が持っていた袋からシューズを取り出した。
くるみは嬉しそうにそれを受け取ると早速履いてみた。
ティンの方が身長もあるので、
ダンスの感覚もすぐにはつかめないだろう。
くるみはミラーの前でストレッチを始めた。
ある程度の運動がおわるのを見計らって、
「ヴィヴィ。ストリートダンスの曲かけて。
ジャンルはランダムでね」
エルフが言った。
ヴィヴィは冥王がどうしても入れたいと作った、
冥界のバーチャルアシスタントだ。
驚くくるみをよそに音楽が流れてきた。
最初はぎこちなかった体の動きが徐々に慣れてきたのか、
軽やかにリズムを刻み始めた。
スピードが速くなってくるとその場にいた死神たちも、
彼のパフォーマンスを魅入るように個々の作業を止めた。
向井もストリートダンスを間近で見るのは初めてだったので、
その姿に息をのんで見守っていた。
自分の体でもないのに、
これほどのダンスを踊れるとは。
セイが夢中になるはずだ。
無理なことは十分理解していても、
彼にはもっともっと踊っていてほしい。
思わずそう願っている自分がいた。
曲が終わった後もその場にいたものは、
向井と同じ思いでくるみを見ていたのだろう。
凄い……
誰もが動けず声も出せずにいた。
その空気を打ち破ったのは、
パチパチパチパチ――――
セイだった。
「凄い! 凄い!! 凄い~~~~~」
ドア口でのぞいて見学していたセイが、
夢中になって拍手をしていた。
興奮しているのか顔が真っ赤になっている。
「生で見られるなんて」
室内に入ってくると手を取って握った。
「僕、あなたの大ファンなんです」
そういったところで、
「あっ、ティンじゃん。
くるみ君を出して……」
憑依されている時は、
冥界の人間には重ねて見えることもあるので、
セイにはくるみが見えていたのだろう。
その場にいたものが呆気に取られていると、
「お前、持ち場を離れるんじゃない!!
これから霊電のメンテがあると言っただろう」
五十代くらいのガタイのいい男性が、
部屋に乗り込んできた。
「少しくらいいいじゃないですか!! 」
調査室室長は文句を言うセイの襟をつかむと、
「ほら、行くぞ!! 」
と、引っ張っていった。
「くるみ君~サイン、サイン~!! 」
セイの叫び声に死神たちはハッと我に返った。
「いやはや、凄いなぁ」
エルフは驚いた様子で言った。
「これならオーデション通るんじゃないの? 」
周りにいた死神たちも驚愕した顔で頷いている。
ティンから出たくるみが、
死神たちと楽しそうにしている姿を見て、
「これがあるから、
死んでるのに頑張ろうと思っちゃうんですよね~」
向井は見守るような気持ちでほほ笑んだ。
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