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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第六部  第八十六話「祖母の決意」

第八十六話「祖母の決意」

【ステラ王が毒にやられたと知らせを受けたのは、

ジェイド王からでした。

毒に強い王が亡くなった事に疑問を抱き、

調査の過程で殺害された事実に気づきました。

フェアリーストーンの長老から、

事のいきさつを聞かされ、

ジェイド王を許してほしいと哀願されました。

ですがジェイド王はステラ王を毒殺したことで、

既に権力に取り憑かれていたのです。

小さな島国が大国に勝てたのです。

妖精の力を使えば、

近隣諸国が自分の手に入ると思ったのでしょう】

女王は辛そうに顔をゆがめると、

小さく首を振った。

【私はとにかく、

リソス国を壊滅させる力を持った、

フェアリーストーンの魔石という毒を見張る為にも、

ジェイド王より先に、

近隣諸国をまとめ上げなくてはなりませんでした。

そして妖精を助けるために、

ジェイド王と密約を交わしたのです。

まずはこの先、誰も他国に踏み込まないこと。

そしてジェイド王が最も恐れていることを、

彼への献金という形で収めました。

それが男子封印の術。

魔法というものを知らないジェイド王を欺くのは、

そう難しい事ではありません。

魔法は王にしか受け継がれないと説明し、

男性が生まれないことでリソスは、

代々女王が継ぐと決めました】

それでいくと、

妖精が言った属国という話は違ってくる。

まやかしでも友好国ということになるのか………

瑠璃も話を聞きながら考え込んだ。

【たったそれだけのことですが、

ジェイド王は納得し調印に頷きました。

ジェイド王とのことは、

長老が責任をもって監視するということになったのです。

近隣諸国の復興と妖精の命を助けるためにも、

戦争を止めなくてはなりません。

これ以上の犠牲が出ないよう、

私はすべてを飲み込みました。

ただ、それを越えても王子が生まれてくる。

それほどに強い力を持った魔法使いという事です。

ジェイド王に知られないよう、

魔石から守る為、

異世界への扉を開いたのです】

女王は辛そうに話した。

【その場所でも死ぬかもしれない。

それでもここで殺害されることを思えば、

生き延びるチャンスが残っています。

生ある事だけが幸せとは言えません。

ですがその世界に未来があるのであれば、

王子の人生にもつながるでしょう】

この話を聞くと、

女王にとっても苦渋の決断であったわけか………

瑠璃は驚きとともに見つめていた。

【封印魔法が行われてから、

最初に生まれたのが瑠璃、あなたの父親です。

エリスは王子だけを異世界に飛ばせぬと、

一緒にそこに落ちていきました】

女王は瑠璃を見つめたまま言った。

そうか。

瑠璃が見たあの夢はその時の出来事だったのか………

王妃の決断。

祖母の勇気。

全ては王国と妖精、その近隣諸国の為。

瑠璃は黙ってその話を聞いていた。

【エリスにとっても、

国が正常に動き出せば、

帰れることも視野に入れて、

未知の国で暮らしていたと思います。

この通り通信も不安定で、

あの子はよく耐えて暮らしてきたと思いますよ】

本当にその通りだ。

祖母は強い人だ。

その話に瑠璃は涙が零れた。


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八雲翔
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