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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー16ー
「賽の河原」
賽の河原は子供のうちに亡くなった親不孝者という事で、
石を積んでは壊されと言われているが、
冥界では亡くなった子への思いを親が悲しみ安らぐまで、
子供は転生できないとされている。
賽の河原にはそんな霊魂が集められていた。
子供を思う親の気持ちは、
そんな簡単に消えるものではないが、
時が経てば薄らぐものである。
河原には子守鬼がいて子供の面倒を見ている。
賽の河原では六歳までの子供が、
石積遊び、鬼ごっこなどをしながら、
親の思いが薄れるのを待っている。
その後、
気持ちが和らいできたものから消去課に運ばれる。
六歳を過ぎると成人と同じ扱いになるが、
サロンではなくホームでの生活になる。
八歳になると親の悲しみが強くても引き裂かれ再生に回される。
その際に保護課にはリハビリプログラムがあるので、
八歳までの子供は魂再生療法を受け待つことなく再生される。
ただし、ネグレクトに関しては、
賽の河原に一旦運ばれてから、
すぐに保護課のカウンセリングへ回され再生へと進む。
十五歳までは未成年サロンでの生活。
十六歳からは通常サロンに移動となる。
賽の河原は下界では子供の罪とされているが、
冥界での講義では人間の生そのものと教わる。
それが人間の欲には限りがなく、
満足することが少ないことから、
生まれてから人間は賽の河原を歩むと言われる。
賽の河原の石積の話は、
人生苦行をさしているのかもしれない。
向井と安達が玄関口で舟から降りる子供たちを待つ。
冥界から放たれる光の渦は老若男女関係なく、
彷徨う霊魂を上へとあげる。
ただその渦からはぐれると、
子供霊に関しては保護課だけでなく、
ホームからも死神が下界に降り連れて行く。
子供の死亡率も多い為、
六歳までを受け入れている賽の河原からの舟は、
日に何度も来ることがあれば、
反対に何日も来ないこともある。
なので、賽の河原でも子供の霊で溢れている。
今回は数が少ない代わりに、
虐待された子供の霊が何体かいる様だ。
船頭から書類を受け取り向井が確認する。
「今回は少ないですね。
運ばれてきた六人のうち三人がネグレクトですか」
「ベビーがいなかったね。
六人とも四歳だそうだ」
「わかりました。ご苦労様でした」
向井がサインをすると船頭は帰っていった。
安達は目つきが鋭いので子供が怖がるかと思いきや、
意外と子供には好かれる。
魂として冥界に上がってくる子供は、
かなり浄化されているので、
虐待されていても魂自体は概ね修復されている。
子供ならではの治癒力なのだろう。
「ネグレクト三人は、
安達君がリハビリステーションにお願いします。
残りの三人は俺が消去課に送るので」
「わかった」
安達は子供の手を引いて歩いて行った。
「えっと、お名前言えるかな? 」
残った子供に向き直るとしゃがみこみ向井が聞いた。
「歩夢です」
「チカコ」
「圭太」
「じゃあ、三人でお手々を繋いでください。
そして歩夢君がおじさんとお手々を繋ぐと電車みたいだね~」
「電車ごっこ? 」
圭太の目が輝くのを見て、
先程の安達を思い出した向井は、
精神年齢はこの子たちと変わらないなと笑った。
「電車好き? 」
「好き!! 」
圭太と歩夢が同時に言った。
「そうか~チカコちゃんは何が好き? 」
「あたしはダイヤモンド」
えっ? 宝石?
今どきの子供はこんなに小さくても宝石が好きなのか。
「あのね~ダイヤモンドは水の魔法が使えるの」
「魔法? 」
「そう。このドレス見て~
あたしはダイヤモンドの王女様なの」
ああ~そういうことか。
子供の変身ものアニメね。
そういえばこの子がきているドレスは、
きっとご両親が棺に入れたものだろう。
こんなに愛されている子もいれば、
身勝手に消されてしまう命もある。
この仕事に携わるようになってから人間でいた時より、
命の尊さを感じているのかもしれない。
「おじちゃん? 」
歩夢が向井を見上げた。
「あっ、ごめんね。
これから一緒にお姉さんのところに行くからね」
消去課には田所の他に、
弥生という二十三歳の女性がいる。
図書館で働いていた彼女は、
門を出たところでバイクにはねられ死亡。
残りの人生は十六年で、
既に三年経過しているのであと十三年。
かなり短命の人生になる。
ただ、特例不足と言われているので、
もしかしたら弥生はしばらく残るかもしれない。
同じに若く死亡しても、
人生時間があるものは冥界と言えど、
それなりに人生は送れるが、
弥生にはそれがない。
新しい人生を送りたいなら、
すぐに再生するのが一番だが。
「ママはいる? 」
圭太の言葉に、
考え事をしていた向井はハッと我に返った。
「ここは特別なところだから、
ママはまだ来られないんだ」
向井がそういうとチカコが顔を上げた。
「あたし、死んじゃったんだよね」
その言葉にドキッとした。
「僕も死んでるの? 」
圭太が不思議そうに向井を見上げるとチカコが言った。
「だって川にパパとママが映ってたもん。
元気? お腹空いてない? って言うの。
鬼のおじちゃんが返事をしてごらんって。
だから元気だよって言ったら、
ママがご免ねって泣くの」
「僕のパパもサッカーの約束守れなくてごめんって」
歩夢もそういうと、
「だから僕も死んじゃってごめんって。
でも、お友達と一緒だから大丈夫って言ったら、
鬼のおじちゃんが舟に乗ってもいいよって」
「そうか。君たちは強い子だね」
向井はこの子たちの来世には、
もっと幸せな光が降り注ぎますようにと、
願わずにいられなかった。
「これから行くところには優しいお姉さんがいて、
その人が君たちをちゃんと見てくれるからね」
向井は子供たちの体をぎゅっと抱きしめると、
手を取って消去課へ向かった。
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