![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/165487425/rectangle_large_type_2_9165deb8ee1052fb645524b34c022d11.png?width=1200)
【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー37ー
「幽霊 元秀」
「そういえば、俺がここに来た時、
死んでるのに死にたいって騒いだのを覚えてる? 」
元秀が思い出すように話し出した。
彼はテロの爆破で体が吹っ飛ばされていて、
簡単な処置はされていたものの、
海外からここへ運ばれるまで時間もあり、
冥界に来た時の魂はもがき苦しんでいた。
「最初に君を見た時に、
このまま魂の死を迎えた方が幸せなのではと、
俺達も悩んだんですよ」
一年前の出来事を向井は思い返して言った。
病気や事故などの霊は痛みに喘いでいるので
冥界に運ばれてくると一旦医務室に入り、
魂再生治療を受けることになっていた。
「だけど……」
元秀がその時を思い出すように話し始めた。
「治療を受けたら嘘みたいに体の痛みが取れて、
俺もちょっと欲が出てきたんだよね。
痛みの記憶も消えてたし、
描き残したいものがあるって話したら、
派遣登録できるって言われてさ。
あの時は驚いたなぁ~」
元秀が向井を見て笑顔になった。
元々無口な彼が、
こんなことを話すのも来世に進む準備が、
整い始めているからかもしれない。
「俺だって元は人間ですからね。
死んだ後にこんな仕事させられるなんて、
思ってもみませんでしたよ」
「そういえばそうか。アハハハハ」
元秀は声を立てて笑った。
「俺が生まれ変わって次に死んだ後にここに来るだろ。
その時に自分の作品を見てどんなふうに感じるんだろう。
死後にこんな世界があるのを知ったら、
多分死に対する考え方も違ってくるんだろうな」
「そうですね」
向井も自分の死を改めて考えていた。
俺の再生は六十五年後だが…………
どんな世の中に移り変わっているのか。
特別室とかかわっているので物恐ろしさの方が今は強い。
それでもいつかは再生の道へと進むことになる。
冥界でさえ天国でも地獄でもないとすれば、
この世界は何とつながっているのだろう。
下界で繰り広げられている多くの出来事が無価値に思えてくる。
向井がそんな考えに耽っていると、
先程まで騒いでいた霊の声がパタッと聞こえなくなった。
なんだ?
廊下を見ると、
「ギャアギャアうるせえんだよ!! 」
不機嫌な牧野が蹴り上げたようで、
霊の方が痛みで失神したらしい。
オクトも呆然として見ていた。
「牧野君、やりすぎですよ」
「でも、静かになっただろ?
うるさくて眠れねえよ」
牧野は文句を言いながら休憩室に入っていった。
「疲れてるなら自室に戻ればいいのに」
早紀もそういいながらサロンを出て休憩室に向かった。
特例はそれぞれ部屋を与えられているが、
休憩室にいることが多い。
趣味に没頭したい時は自室にいるが、
それ以外は本を読んだり物を作ったりと、
休憩室は特例や死神の憩いの場になっていた。
仮眠なら休憩室の方が賑やかなのに、
何故か子守唄のようで落ち着くのが不思議だ。
いいなと思ったら応援しよう!
![八雲翔](https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg?width=600&crop=1:1,smart)