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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー54

「特別室」

コンコンコン――――

「失礼します」

向井が一礼をし入室した。

「呼んだらさっさと来い!! 」

道川は特に気が短いのか年中怒鳴り声を上げている。

「申し訳ございません。
他にも仕事がございますので」

「どちらが重要かわかるだろう? 
お前はそれも計れないほど愚鈍なのか? ん? 」

灰田の嫌味に、

「まあ、いいじゃないか」

大沢がとりなし向井に近くへ来るよう手招いた。

「なんでしょう」

向井は彼らの囲むテーブルに近づいた。

この特別室は冥王室の横にある部屋から、
さらに奥に入った先にある。

隔離に隔離されているのが特別室で、
入れるのは冥王と死神、そして向井だけだ。

世間を騒がせているニュースも増えているので、
何とかしたいのだろう。

国公認の他国のスパイが堂々と暮らしているのだ。

幾らマスコミを手中に収めているとはいえ、
世間の目をごまかすのにも限界がある。

先日も国内で通信混乱で事件を起こした時も、
向井の提案で新たな通信分室を設置。

同調圧力にも弱いことを利用し、
情報操作で難局を乗り越えた件があり、
彼らにとって向井は利用価値があると思われたようだ。

彼らが囲む円卓からは年に一度下界の様子を一部、
眺めることが許されている。

更に下界から送られてくる情報もあり、
その伝達を向井が行っていた。

その状況を踏まえ、
彼らは国を掌握しようとしていた。

事実、圧力の効果があるのも、
彼らを増長させることにつながっている。

数ヶ月前までは他にも何人かいたのだが、
現在特別室にいるのは四人だけである。

この部屋を去った霊達は冥界に献上する命がなくなり、
この場から追放されている。

追放された魂は、
二度と生まれ変わることのない場所に幽閉され、
魂の寿命が尽きるまで閉じ込められることになる。

それは何百年かもしれないし、
数年かもしれないし魂の寿命次第だ。

ここから去る前に特別室の霊は部屋を移され、
残ったものには何も知らされないまま幽閉される。

移動した部屋にて、
冥王からの裁きを言い渡されるので、
今いる彼らには知る由もなく、
死神から他のものは次に進んだとだけ説明されていた。

向井が大沢の横に立つと、

「うちの妹に御託宣をさせろ」

と尊大に言った。

この御託宣が曲者で、
御託宣室から受け手にお告げとして言葉を託すと、
受け手から一つ今の状況を知り得ることができる。

「今の法案で馬鹿どもが騒いでるって? 
某国に売った情報に加え、
システムエラーで漏れたことでも騒ぎだしているじゃないか」

「はい、そのようですね」

「それを何とかさせろ。お前の仕事だろう」

「私は冥界での仕事のみで、
あなた方の秘書ではありませんので、
何とかしろと言われましても。
それに漏れて取引される情報は、
階級制度の政財界をのぞく一般国民だけですから、
何ら問題はないと思いますが? 」

「死にぞこないが口答えするな。
我々を誰だと思っているんだ!! 」

道川が怒鳴った。

「不言実行という言葉を知らないのか? 
我々がいなければお前らなど価値はない。
生き死にの権利が我々にあるという事を、
お前らも肝に銘じておけ」

「では、
システムエラーの会見でも開かれたらどうですか。
事情説明だけして重要なところは言わずに、
会見は金曜の夜のニュースで流してください。
週末は誰もが娯楽に向いていますから問題はないかと。
報道番組も事実は隠ぺいしてくれます。
インフルエンサーも利用しない手はありません。
最後は動物の話題でもふってください」

「なるほど。人は単純だからな。
では、そのようにアンナに伝えておけ」

大沢はそれだけ言うと部屋を出ていけと合図した。

向井は一礼すると死神を連れて部屋を出た。

「ドセくんにはあの人たちの相手は荷が重かったね。
次からはオクトさんかアートンさんにお願いするといいですよ。
誰もいなかったら俺が行くまで放っておいていいから」

ドセは息を止めていたのか、
はあ~と大きく口を開いた。

「特別室に行くの初めてだったんで緊張しちゃいました」

死神の中でも若いドセにはきつかったのだろう。

「ただの死んだおじさん達です。
何を言われても気にしなくていいですよ」

向井は安心させるように話すと二人は声を上げて笑った。


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八雲翔
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