見出し画像

【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第五部  第七十六話「静子の手紙」

第七十六話「静子の手紙」

【親愛なるエリスさんへ


私はあなたに謝らなくてはなりません。

貴方はすでにご存じでしょうが、

私達の大切な息子輪(りん)に、

貴方からの手紙を読まれてしまい、

あの子は一度内緒であなたに会いに行ったそうです。

輪が組織に狙われる原因を作ってしまった私を、

恨んでくれて構いません。

そして輪を助けてくれたあなたに、

何と謝罪すればいいのか、

本当に申し訳ないことをしてしまいました。

そんな輪も去年結婚しました。

来年には孫も生まれます。

私達はお祖母ちゃんですよ。

月日が流れるのは本当に早いものです。

ただ、私の寿命はもう尽きています。

孫の顔を見ることはかなわないでしょう。

息子にも出自に関しては、

これから起こるかもしれないことを慮り、

全てではありませんがお話ししました。

本人も戸惑っていましたが、

己が持つ力を薄々感じてはいたのだと思います。

ただ黙って聞いておりました。

孫が生まれることでこの先また、

何かが起こるかもしれないことを考えると、

息子には覚悟を持ってもらいたかったのです。

私の勝手なわがままで、

話さないというあなたとの約束を反故にしてしまったこと、

許してください。

この手紙をあなたが読むころには、

私は亡くなっていることと思います。

息子にも話しました。

私が亡くなった後、

私の希望で苗字を蒼川に戻しなさいと言いました。

貴方と輪、そして孫との繋がりです。

出来れば亡くなる前に、

もう一度あなたに会いたかった………

そうそう、生まれてくる孫は女の子だそうです。

貴方が亡くなったら、

向こうで一緒にお茶をして孫の話でも致しましょう。

かしこ】

二人の祖母に会いたかったな………

今頃向こうで私の話をしてるかな………

こんな孫でがっかりしてるかな………

瑠璃は小さく笑った。

父は宝石の事はあまり話さなかったが、

一度だけ、

【俺は三月生まれだからアクアマリンだろう。

輪の名前はそこから来てるんだぞ。

宝石つながりで、

お母さんと知り合ったんだ】

と話していたのを思い出した。

母も三月生まれで名前が珊瑚。

宝石に興味がないわけではなく、

敢えて話さなかったのだろう。

瑠璃も九月生まれで、

ラピスラズリから瑠璃と付けたと母に聞かされた。

ラピスの誕生石は九月と十二月だから。

瑠璃は手紙を読み、

父の事を思い出していた。

父は全て知っていたのだ。

何事もなかったように私を育て、

祖母と一緒に私を守ってくれていた。

多分こんなに早くに亡くなるとは考えていなかったのだろう。

分かっていれば私に話しただろうし、

何かしら残してくれたはずだから。

アクアマリンの宝石言葉は勇気。

父は運命に振り回されない生き方をした。

瑠璃は手紙を仕舞うと、

これでいくと狙われているのはこの国からだけ? 

国も三種の神器に執着はしていたが、

瑠璃が何か力を持っているとは思っていないようだったし、

監視も外れた今、

フォスがいたところで何の問題も感じられない。

とすると………もう安心?

宝石王国からは攻めてくる気配もない。

鏡は光るものの、何の変化もないし、

はめる場所も見つけられない。

宝石王国については妖精の話だけだからな。

彼らの説明ではうまく伝わってこない。

その場所が再現できればいいのだろうが、

コピー空間でその国を再現できても、

国民性は皆無だから、

女王も実際はどんな危険人物なのかも分からない。

はぁ、瑠璃は大きなため息をついた。


この記事が参加している募集

よろしければサポートをお願いします! いただいたサポートは物作りの活動費として大切に使わせていただきます。