
Book Review 『プロ弁護士の思考術』 矢部正秋著、PHP新書 (2007)
1.学んだこと
誰もが、先生や上司などから、「自分の頭で考えなさい!」と言われたことがあると思う。一方で、一体どうすれば自分の頭で考えたことになるのか、いまいち分からないという人もいるのではないだろうか。本書は、自らの頭で思考する術を、弁護士としてのご経験や数々の思想家の引用をもとに紹介している。
まず、考えを生み出すには「①情報収集→②構造管理→③対策立案」という手順を必ず踏むことを提案している。交渉前、ビジネスの提案、探究など様々な場面に応用出来ると思った。①について補足すると、人はどうしても機械的に判断したり、物事を過剰一般化する傾向があるため、関連する情報を偏らずに収集し、客観的に状況を分析することが必要と述べられている。そのための手段として、Yes かNoかではなく複眼的に考え選択肢を複数持っておくこと、日頃から物事の因果関係を意識することなどを進めている。以外だったが、因果関係を意識するには、自然に触れることもよいと述べられている。その例として、殺虫剤とコマドリの死の因果関係をつかんだレイチェル・カーソンの『沈黙の春』や、藤原敏行「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」の和歌が紹介されている。
次に、①~③を踏まえ相手へ提案や交渉をする上での心構えについても述べられている。宮本武蔵『五輪書』の「太刀の持ち方を居着く(固定する)」という部分を悪例として引用し、状況に応じて臨機応変に打つ手を換えることを推奨している。また、時に相手に感情をぶつけたくなるようなこともあるかもしれないが、その場の本来の目的は何かをしっかりと踏まえることや、不満を言うよりもオプションを沢山もつことがよいことを勧めている。さらに、相手と過去は変えられないため、自らが合理的になることも提言している。
2.もっと知りたいこと
本書は、思考術というよりも、マインドの持ち方について言及されていると思った。そのため、具体的なhowを知りたい人にはあまり向かないかもしれない。たとえば、情報収集一つとっても、本当に必要な情報にたどり着くためには、逆に不要な情報を切り捨てるにはどうすれば良いか、そしてそもそも情報がほとんど手に入らないような不確実性が高い状況下で、どう対策立案を著者はとってこられたのか、それぞれお考えをお聞きしてみたいと思った。