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ideaboard® 開発ストーリー連載 #1_発想編 | アイデアの種を育て続ける

 2019年10月、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の販売を開始しました。
片手で持ち上がるほどの軽量性と耐久性、アイデアの記録や共有、場の空間構成など多様な行為を促すデザインを兼ね備えた、シンプルな一枚板。極限まで削ぎ落とした造形と、その活用自由度、最低限の構成要素で実現したボード自立性が評価され、同年のiFデザイン賞とグッドデザイン賞を受賞しています。

Ideaboard商品

Ideaboard使用シーン

 プロダクトの開発過程は、デザイナーが、エンジニアやユーザーを巻き込んで小さな仮説検証を繰り返す、”デザイン思考を活用したものづくり”の実践現場でもあったそう。この連載では、開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。

 まず前半にお話を聞くのは、ideaboard発起人であり、NKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN 室長の長﨑 陸さん。京都と、海外でデザインビジネスを学んだ彼が、どのようにアイデアを具現化しideaboardの商品化に至ったのか、そのきっかけや経緯について全8回に渡りお届けします。

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長﨑 陸 / Riku Nagasaki
中西金属工業株式会社 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN
NKC BUSINESS DESIGN CENTER


1.ideaboardは ”アイデアのまな板”

ーideaboardは、” 新しいホワイトボード ”  なんですよね。

ideaboardを僕個人の言葉で説明するなら、”アイデアのまな板”。
どんなシーンでも、みんなでアイデアを出し合って料理するための一番いい場所、という風に捉えています。

最初はとにかく”軽いホワイトボード”が欲しかったんです。ホワイトボードの大きな機能である「マーカーで書く」「ポストイットを貼る」「資料を貼る」という3つを、どう満足させるか。あとはそれをどう運びやすくするか。ideaboardは、ホワイトボード…ではあるんですが、開発を進めているうちに違うなと思ってきたところがありますね。

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2.ホワイトボードの概念が変わったフィンランドでの経験

ーideaboardというプロダクトを開発するにあたって、本当に最初のアイデアの種はどこで生まれたのでしょう?

大学院生のときに留学した、フィンランドのAalto Design Factoryでの経験はすごく大きいと思います。とにかくそこでいっぱいホワイトボードを使ったんです。

少しさかのぼると、京都の大学で学んでいたときもホワイトボードの存在は大きかった。たまたま隣にワークプレイスの研究室があったし、所属するラボのデザイン教員もホワイトボードの重要性を知っていたので、大学でも早い時期から使っていました。だけど、それはデザインのスケッチを貼るためだけのボードで、それに何かを書いて討論するみたいなことはあまりなかったんです。

それがフィンランドに行って、まず多国籍・多宗教・多言語の中で、さらに、デザイナーやエンジニア、ビジネスマンといった全く違う分野の人たちの中で、アイデアをつくる議論をしないといけなくなった。当時、僕はほぼ英語を喋れなかったこともあって、絵に頼るしかなかったし、学科のカリキュラム自体も、とにかく視覚化せよという方針だったんです。

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ー共通の言語を持たないメンバーの中で、言語以外で見える化するための手法が必要とされたんですね。

世の中にある「言わなきゃわからないでしょ文化」と、「言わなくてもわかるでしょ文化」。どちらもいいところはあると思うんです。ただ、新しいアイデアや、人がまだ気づいていない問題を解決するためには、その「言わなくてもわかわかるでしょ」的な問題を皆がわかるように見える化しなければいけない。それを集まって出し合う場所というものがすごく大事なんです。

そんな風に捉えて使ってみると、ホワイトボードってすごく便利だったんですよね。自分の中で、人とコミュニケーションするためには絶対なくてはならないものになったんです。ホワイトボードのイメージは、フィンランドでの経験で全く変わりました。

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3.デザイン現場にホワイトボードがない!じゃあ、何が使えるか?

ーフィンランドでの経験をきっかけに、その後はお仕事でもホワイトボードを使いこなしていくのでしょうか?

留学を終え、京都に戻って修士課程を修めたあと、総合デザイン事務所 GK Kyotoで働き始めました。実は、そこにはホワイトボードがほぼなくて。スタッフがお互い近いところにいたからか、ブレストをするとかアイデアを出すときに、ホワイトボードは使っていなかったんです。最初、下積みとはいえ、いろんな業務を任せてもらう機会もあるのに、やっぱりホワイトボードはない。

そんなときに先輩が、サブロク板サイズ(約900mm×1800mm)のダンプラとかスチレンボードとか、安くて軽いものを代わりに使い出した。ただ、湿気や保管状態によってだんだん反ってくるので、アルミのCチャンネルを長辺に2本差し込んでたんですね。そうしたら、ポストイットを貼ったり、資料をマッピングしたり、十分に道具として使える感が高まった。「これすげえな!」って思って、僕も使わせてもらっていました。

だけど、書けないし消せないという問題。大きなボードにポストイットを大量に貼ってマッピングをするときには、マスキングテープで輪っかを貼ってあとで取れるようにしたりとか。超ストレスでしたね。でも当時、通常業務が超忙しかったのもあって、そこに時間を割いてまで何か改善行動を起こすってわけではなかったです。

4.「持ち運べる」「アイデアを人に見せる」という要素への気づき

ーその後、転職されて京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab(以下、D-lab)に所属されますよね。そこでもホワイトボードに対する新しい気づきはあったのでしょうか?

D-labでもデザインやイノベーションという話のときには、ホワイトボードは絶対必要だったんですよ。でも、そこにもなかった。大学なので講義で使う白板はあったけど、アイデアを出す場所としてはなかったんです。

そんな中、少ない予算でなんとか買った普通の安い自立型ホワイトボード10枚くらい。それがもう、エレベーターにも入らないし、1人で運べない。学内のいろんな場所でワークショップがあるので頻繁に運ぶ必要があったんですけど、男手2人で、5台とか10台を4階から1階に降ろして、また別の建物に行って上層階に持ち上げるとか。そういうことをよくしてましたね。

ー「移動する」「持ち運べる」ことが必要ではないか、ということへの気づきですね。

「持ち運び」についてはただ単に運ぶ必要があったということなんですが、D-labでは「プレゼンテーションをする」というのが大きなキーワードになったと思います。

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例えば、学内のワークショップでは講義室の椅子を全部取っ払ってだだっ広い空間を作ったあと、そこにホワイトボードを置いてアイデアを出し合うんですね。でも結局ポストイットやスケッチが溢れるので、最終的にはみんな、壁面とか窓に近いところでやりだすんです。だから真ん中がぽっかり空くんですよ。

そしてそれをプレゼンテーションするときには、聞く側がぞろぞろ回遊していく。もしくはポストイットを壁面から模造紙に貼り直して、誰かが持っておく。4人チームで、1人喋って、残り3人が模造紙持って突っ立ってるとか、光景としてはよくありますよね。あれはやばくね?と。笑

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そんな問題意識から、GK KYOTOで使っていたあのボードを自分で作ってみようと。その頃には、両面ラミネートされて書けるし消せるスチレンボードがネットで出ていて。それに同じくアルミのフレームをつけて20枚くらい用意して運用し始めました。

そしたら学生達が、2枚合わせてA型にすると自立しますね、と上をテープで止めて使い始めた。動かすときはサブロク板を縦に持つだけなのでエレベーターにも載せられるし運びやすいしいいじゃん!って。従来のキャスターをがらがら引っ張るタイプのホワイトボードは相変わらず使われていましたが、その両脇にA型のボードを置くことで、壁面を使わなくてよくなりました。

5.アイデアが定着していくボードが生み出すのは”安心感”

ー自立式のA型ボードを使い始めて、ワークショップは何か変わっていきましたか?

ワークショップとか、アイデアをみんなで出し合うその空間自体が、すごくよくなったんです。安心してアイデアを出せるようになったというか。

ー「安心してアイデアを出せる」とは?

発話した自分の言葉が、ボードの上にきちんと定着する。そうすると、自分が当事者としてその場にいてもいいんだ、話してもいいんだ、みたいな安心感が生まれる。そうゆう状況をツールによって作り出せるのはおもしろいなって、この時思いましたね。

僕たちの会議スキルって、小学校の学級会から全く成長していないと思うんです。成長しているところがあるとすれば、それはきっと”根回し”ぐらい。何かの問題解決のために、アイデアを出し合うとか知恵を出し合うのは実はかなり高度な会議プロセスなので、しっかりルールに則ってやらないといけない。
コートもないのにサッカーのルールを覚えられないのと一緒で、学級会しか知らないのに新しいアイデアを出すための会議なんて、その場所を整えない限りは難しいと思っています。その”設え”となる場所を作りたいっていうのが、ideaboardを考えていく中で言葉になっていきました。

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次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#2 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 其田 有輝也)

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