0304『蒼氓(石川達三)』感想。
1930年と2023年
円高による海外での労働を推奨するような気配がある令和5年に、昭和5年を古い時代の話と一蹴できないし、出てくる登場人物の人間性もまた、今の時代と変わらない。ゆえに個人の話としてではなく、集団としての力強さとして読ませる基盤ができているように思う。
疑似家族と疑似日本人の集団
ただその集団は少し奇妙である。佐藤一家は移民のために計画された疑似家族だし、[ら・ぷらた丸]に乗る日本人集団は、その神戸の港、そしてサントスの河港での極まった送別でのシーンをみるにつけ、もう日本人ではないように描かれている。それは船内での日本での情報を誰も気にしなくなった描写にも描かれている気がする。
暗さと明るさ
この小説が暗いか明るいかなら、それは明るい、しかし希望のような明るさではなく、覚悟の明るさがあるように思う。また気候の描写として、神戸での雨とサント・アントニオ農場の朝日で終わることが証明しているとも思う。
視線のゆくえ
個人的に最後の、義三・勝治・孫市が農作業に赴き、その後姿を婆さんとお夏が、木扉から見守っているシーンが印象に残っている。それまで円座になったり、個々で話し合ったり、感情の行き違いで別の方向を向いていた者たちが、同じ方向をみて歩いているところに感動する。それがまた別な運命での家族というものに感動する。
小説として
小説の文体に詳しくはないけど、細かい情景描写というよりも、事実の連鎖を巧みに絡ませるところが良かった、かと。またその一方で、第一部の最後で姉を何度も呼ぶ描写も勉強になりました。
なるべく今年は、色々な情報の感想をここに残せたらと思います。
宜しくお願いします。
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