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【論文紹介】教育における生成AI活用の際に注意すべき「メタ認知的怠惰」とは

最近、生成AIを活用した教育実践に関する論文の出版が増えてきています。今回は、その中でも、教育工学分野でトップジャーナルの一つであるBritish Journal of Educational Technology誌に掲載された" Beware of metacognitive laziness: Effects of generative artificial intelligence on learning motivation, processes, and performance"という論文について紹介します。

この論文では、「メタ認知的怠惰」という概念に着目し、教育場面で学習者が生成AIとどう向き合えばよいかについて検討しています。「メタ認知的怠惰」とは、学習者が生成AIによるアウトプットやフィードバックに過度に依存してしまい、自分で自分の学びをコントロールしなくなってしまうが生じてしまうことです

学習者と生成AIとの向き合い方についてどのような示唆が提起されているのでしょうか。


書誌情報

Fan, Y., Tang, L., Le, H., Shen, K., Tan, S., Zhao, Y., Shen, Y., Li, X., & Gašević, D. (2024). Beware of metacognitive laziness: Effects of generative artificial intelligence on learning motivation, processes, and performance. British Journal of Educational Technology. https://doi.org/10.1111/bjet.13544

研究の概要

学習場面で人が生成AIと協働しながら知性を発揮していくハイブリット知性(hybrid intelligence)に注目が集まってきているが、そのことによって人がどのような便益を得ることができるか不明なことが多いという現状があります。

そこで、この研究では大学生向けのライティング課題を対象に実験を行っています。具体的には、ランダム化比較実験を用いて、ChatGPTから学習支援を受けた群と人間の専門家から支援を受けた群間で学習者の動機づけや自己調整学習、学習パフォーマンスにどのような違いがみられるかを検証しました。

特に注目すべき結果として、ChatGPTのようなAI技術は、学習者のテクノロジーへ の依存を促進し、「メタ認知的怠惰」を引き起こす可能性 があるということを明らかにしました。

結論

  • ChatGPTを活用したエッセイ課題のパフォーマンスは、人間の専門家による指導を含む他の群のパフォーマンスを大幅に上回りました。しかし、知識の獲得や転移には有意な差が見られませんでした。

  • ChatGPTが短期的なタスクパフォーマンスを向上させることができますが、内発的動機づけや長期的な学習成果を高めることはできない可能性があることがわかりました。 また、メタ認知の怠慢についても懸念があり、学習者がAIに過度に依存するようになり、自己調整能力や学習への深い関与を妨げる可能性があることも示されました。

示唆

結果を踏まえて、著者らは以下の考察を行っています。

  • 学習にAIを使う場合、学習者がChatGPTのフィードバックを鵜呑みにするのではなくメタ認知的プロセスを積極的に働かせるうように支援すべきである。

  • AIを授業で活用する際、教師は適切な学習課題を学習者に与え、学習者が能動的な学習を行えるように足場かけを施すべきである。

私の解釈・感想

  • 生成AIを教育に活用することに注目が集まっています。しかしながら、うまく学びの場をデザインしないと、学ぶ力の育成に負の効果を与える可能性がある認知的怠惰を生む可能性があるというのは新たな気づきでした。

  • 実験結果では、人の専門家によるサポートでは、学習者がさまざまなメタ認知プロセスを生ききすることが示されています。こうしたプロセスを支援し、学習者が学べるように支援することが、人間の教師の役割の一つかもしれないと思いました。

  • 実験参加者の行動ログから自己調整学習プロセスを調査するために、 the process mining method (pMineR) utilising the firstorder Markov Model (FOMM) という手法が用いられています。この手法の存在をはじめて知りました。学習評価にこの手法を用いることで、より精緻に学習のプロセスを調査することができそうなので、機会があれば調べてみたいと思いました。

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