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【論文紹介】生成AI時代のインストラクショナルデザインと学習評価

教育工学に関する国際学会の一つであるAECTが発行しているTechTrendsに掲載された、生成AI時代のインストラクショナルデザインと学習評価に関する論考です。

著者はTechTrends誌の前任の編集長であるHodges氏と教育心理学の大御所であるKirschner氏によって著されたものです。

教育工学と教育心理学の第一人者ともいえる著者らが、これからの時代のインストラクショナルデザインと学習評価をどう捉えているのでしょうか。


書誌情報

Hodges, C. B., & Kirschner, P. A. (2023). Innovation of instructional design and assessment in the age of generative artificial intelligence. TechTrends, 68(1), 195–199. https://doi.org/10.1007/s11528-023-00926-x

私なりのまとめ

生成AIは今後どんどん発展する。それらのツールの使用を学校が禁止することは不可能で、生産的でもない。一方で、生成AIを学習活動に活用するのにはリスクも伴う。生成AIは学校で課されるアサインメントや課題に対して人間と同じような反応を示すことができるため、学習者が学習に努力を注がなくても生成AIを活用して、そうした課題をこなすことが可能となってしまい、学びが成立しなくなってしまうという懸念がある。また、生成AIは考えたり、理解したりしているのではなく、確率にもとづいて人間のように反応をしているので、不正確な出力をする場合もあり、それらを鵜呑みにせず、学習者が出力を判断できるようにする必要がある。

このような生成AIを学習活動に活用する際の課題を乗り越えるために、インストラクショナルデザインと学習評価にはどのような工夫ができるだろうか。著者らは単に、学習活動を「こなす」支援をするのではなく、何らかの概念を深く理解できるようになったり、スキルの活用ができるようになったりと「学習」が成立することを支援するための方法として12の方略を提案している。

生成AI時代のインストラクショナルデザイン12の方略

次の12の戦略を組み合わせることで、教育者は概念の深い理解や批判的思考、倫理的理解を促進し、生成AIがもたらす課題を克服することができる。しかし、生成AIが発展すればするほど、それも厳しくなることが予想される。

  1. 最終成果物ではなくプロセスを強調する
    たとえば、レポート課題であれば、最終的なレポート原稿に加え、原稿のアウトラインや草稿などの資料の提出も求め、プロセスも評価の対象とする。

  2. 口頭による評価を取り入れる
    口頭試験やプレゼンテーションは、AIを活用して準備することが困難で有効。しかし、大規模授業の場合は実施が困難。

  3. AI検出ツールの利用する
    AIを活用して作成した文章かをチェックするためのツールがあるので、これらを利用することができる。ただし、これらのツールには検出精度の課題もあるので、教育者は、その限界も知り、責任を持って効果的に活用できるようになる必要がある。

  4. 課題の設計を修正する
    より具体的で、学習個別の状況に即した、あるいは文脈依存の課題を出すようにする。たとえば、授業中に実際に起った議論に直接関係するような課題やAIがうまく対応できない独自性の高いシナリオの課題を提示する。

  5. 批判的思考と分析を奨励する
    AIによって遂行することが難しい、概念を新たな文脈で批判的に考察したり、分析したり、応用したりする課題を取り入れる。ただし、今後の生成AIの発展でこのような課題も遂行できるようになると期待されている。

  6. 応用と創造性に焦点を当てる
    現実世界の問題解決や創造的な試行を必要とするプロジェクトで、学習者の成果や理解を確認する。ただし、生成AIがビジネスパーソンの創造性を拡張すると論じている記事もある。

  7. 授業中に課題を出す
    オンラインか対面かにかかわらず、同期型の授業中に評価を実施することで、学習者自身のアウトプットを評価する。

  8. 相互評価と協働作業を取り入れる
    学習者同士の学び合いに参加させることで、学習活動により深く関与させることができる。ただし、生成AIも相互評価と同様の出力を返すことができる点に注意が必要である。

  9. デジタルリテラシーと倫理カリキュラムを開発する
    研究倫理やAIの限界、著作権の重要性など、AIの倫理的利用について学生を教育する。その障壁となるのは人間性であり、人は利益がコストを上回るという合理的な判断をした場合に、その行動を選択する。こうした人間の特性も踏まえる必要がある。

  10. 学習パスをパーソナライズする
    学習者個別に学習経験や課題をカスタマイズする。ただし、大規模教室では実施が難しい。

  11. 頻繁でリスクの低い評価を繰り返す
    学習者の理解を繰り返し、長期的に評価するために、「一発試験」ではなく、リスクの低い評価を繰り返し受けられるようにする。ただし、オンラインだと、学習者は生成AIを活用できてしまうのが懸念。

  12. リフレクションを奨励する
    学習者に個人的な経験の振り返りや意見を求める課題は生成AIに不向きである。ただし、プロンプトを工夫することで、これらの課題に対する出力を生成AIに求めることができ、学習者が活用したかどうかを教師は確認するのが難しい。

私の解釈・感想

  • 教育工学やインストラクショナルデザインの研究者は、技術やモノ自体の機能に着目するのではなく、教師や学習者が直面する問題に焦点を当てるべきだ。このReeves and Lin (2020)の主張にもとづいて、本論考では、学習者の「学習」を成立させるために、どう生成AIを活用すべきか/すべきではないかといった議論が展開されている。生成AIの教育的活用についてさまざまな議論が展開される中で、「学習」を成立させるという視点だと、こういう考えもあるのかと勉強になった。

  • 12の方略については著者らの指摘のように今後も生成AIの発展がどんどん進むであろうと思われるので、更新されていくものなのだろうと思った。

  • また、12の方略については学習者が、これからの時代に「何を学ぶべきか」という前提の置き方によっても変わってくるかもしれないと思った。生成AIはこういうことができるから、人間はそれとは違うこういうことを学ぶべきだという議論もありうる。今回の論考は、生成AI時代に「「学習」を成立させるために、どう学びを支えるべきか」という議論であったが、「何を学ぶべきか」という論点についてもさまざまな論考があると思うので読んでみたいと思った。

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