RE脚本『ギルバート・グレイブ』
この虫たちはもう、春に満足してしまっている。
乾いた空にうねる道。茶色にくすんだ木々もまた、退屈そうに寝そべっている。
「5.9.11.12.13.19.50...」
アーニーは数を数えている。
「チキンいるか?」と尋ねると、
「いらない」と言った。
「コーンはどうだ?」
「コーンはほしい」
アーニーはまだらな足取りで僕の方へやってきた。
2口かじると顔を遠ざけた。
「うまいか?」「まずい」
そう言うとまた、誰もいない道へ飛び出してあいつらが来るのを待っていた。
「ねぇギルバート、もうすぐ来るかな?ほら、ぼく家に帰らないといけないから。」
「じき来るさ」
「来ないよ」
「家へ帰りたいのか?」
「ううん、あいつら見たい。」
毎年やってくるあいつらを、僕たちは見にくる。ただの通り過ぎるだけのあいつらを。
この、すぐにちぎれる草っきれみたいに、季節は情けなく過ぎていく。その上を僕らは、進んでいく。
「もうすぐ来るんだよね?あと何キロくらいかな、ギルバート。早く来ないかな」
「300万キロだよ。」
「300?そうか。」
分かったようで、分かってないような、顔をして、道の向こうを覗こうとする。
背伸びをして、ジャンプをして、覗こうとする。
「見て!あそこだ!あいつらだ!」
やってきた。
「見て!見て!ギルバート!見てってば!」
ほとんど白い水色の空の向こうから、車体が見えた。まばゆく光る銀色のバン。思わず手を目にかざす。
「やっほーーーーーーーい」
アーニーは手を叩き、足を踏み鳴らし、喜ぶ。
世界を救うヒーローのようにかっこよく、それでいて、朝日にきらめく海に似て、どこか遠く輝やいていた。
「うぅ〜!」
20台ほどのキャンピングカーの群れが毎年ここを通り過ぎる。旅人だ。
走り出したアーニーの後ろを、僕は荷物を取って、追いかける。
そのエンジン音は、
大地を揺らし、風を放ち、僕らに躍動を思い出させる。
アーニーは止まらない。僕も止まらない。
全力で走る僕らを、キャンピングカーは次から次へとやってきて、追い抜いていく。
しばらく走ると、アーニーは芝生に寝転んだ。
僕を見上げながら、にかっと笑い起き上がると、僕に抱きついた。
「大きくなったな。おぶえないよ。」
「ちがうよ、兄ちゃんが小さくなったのさ。
縮んでるのさ。」
ぎゃははと笑う。
弟のアーニーはもうすぐ18歳になる。
家族で大きなパーティーをする。
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