贅沢なミステリ短編集は洒落と毒を含んで。『招かれざる客たちのビュッフェ』
ペン(先)クラブの部員たちがおすすめの本を紹介する新コーナー。第一弾は街宮供詩さん紹介の『招かれざる客たちのビュッフェ』(作:クリスチアナ・ブランド)です。
あらすじ
医師である「わたし」の夫の診療所に訪ねてきたケリーという名の女は、致死量のモルヒネを飲んだと言った。そして、夫との間に出来た子を身ごもっているとも。「わたし」は突然のスキャンダルに驚愕するが、ケリーのモルヒネの話が狂言であることに気付く。これに気付いているのはわたしだけ…...。「わたし」はスキャンダルを抱えた忌々しい女を始末しようと決意し、実際にモルヒネを盛る。彼女の狂言の通りに……(「カップの中の毒」)。
倒叙物の佳作「カップの中の毒」など全十六編の短編集。
おすすめポイント
全体が五部構成で、それぞれの名前が「コックリル・カクテル」「アントレ」「口なおしの一品」「プチ・フール」そして「ブラック・コーヒー」とされ、ディナー仕立てになっている推理短編集です。なかなか洒落ているでしょう?性格の似た短編をうまく配置し、短編集としてのコンセプトを明確にしている所が上手いです。
クリスチアナ・ブランドの他の作品――特に「ジェゼベルの死」辺りが顕著――でも言えるのですが、一つの謎に対して仮説を多く並べる手法、いわゆる多重解決が非常に効果的に用いられているのがこの作品集の特徴です。特に「婚姻飛翔」や「ジェミニー・クリケット事件」は精緻を極めており、傑作と言って過言ではないと思います。
また、全体に染み込んだ皮肉と悪意が強烈なアクセントとなっており、実に油断ならない作品世界が出来上がっています。特に「事件のあとに」や「この家に祝福あれ」は凄まじい印象を残します。前者はじわじわと効いてくる毒に、後者はとんでもない衝撃に。
全体的に見て、非常に良く出来た短編集だと思います。ぜひ、クリスチアナ・ブランド自慢のビュッフェを味わってみてはいかがでしょうか。ただし、くれぐれも毒にはご注意を。