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こんな大人になるはずじゃ

島に来て2週間が経った。
昨日は仕事の休憩中に昼寝してしまったからか、夜眠りにつくまでに時間がかかってしまった。
その割に、目覚めはそれほど悪くなかった。
朝6時、窓を開けると心地いい風が部屋に入ってくる。
部屋の扉も半分くらい開けて、新鮮な空気を流し込む。
歯磨き、洗顔、ベッドメイキング、着替え、お化粧。
いつものルーティンをこなしているうちに、少しずつ身体が目覚めてくる。
島に来て何回目かの仕事休み。
さあ、今日を始めよう。

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今日はカフェで朝食を摂りたかったので、いつも朝に行う洗濯は昨晩のうちに済ませておいた。
私が島で1番気に入っているお店であるそのカフェは、朝7時半から開店する。
朝早くからやっているお店は、島ではここか、セイコーマートくらいだろう。
だから、自ずと混雑する。
早い時間のバスやフェリーに乗る人、登山目当ての観光客、常連の島民…次から次へとお客さんがやってくる。
そんな中、奥さんは笑顔を絶やすことなく接客を続けていた。
1人で注文を聞き、会計を済ませ、ドリンクを作り、パンを温め、お客さんに提供していく。
その間どんどんやってくるお客さんに、「少々お時間いただいておりますが、大丈夫でしょうか?」の一言も忘れない。
ああ、すごい。
とても忙しそうなのに、笑顔でテキパキとドリンクを作るその姿は、プロフェッショナルそのものだった。

今日は、ミルクティー、バターブレッツェル、パンオレザンなるものを注文した。
ミルクティーは香りのいい紅茶と、ふわふわのフォームミルクが合わさってとても美味しかった。
ブレッツェルは前から狙っていて、今日やっと食べることができた。
温めてもらったので、齧るとジュワッとバターが溶け出してきた。最高である。
パンオレザンは、パイ生地のようなサクサク食感のパンに、レーズンが入っていた。
これまた甘くないミルクティーと相性が良かった。
朝に来たのは初めてだからか、見たことのないパンがいくつもならんでいた。
やっぱりまた来なければならない、そう思った。

朝から何をやっているのだろう。
朝食2回戦である。
こんな大人になるはずじゃなかった。
そう思いながらも、缶ビールを開けていた。
「◯◯限定」に弱い私は、朝も早よから北海道限定のビールを飲み、セイコーマートオリジナルのカツ丼を食べている。
サッポロクラシック、さっぱりしているけれどどこか甘味があって、とても飲みやすかった。
カツ丼は聞いていた通り、コンビニのクオリティではない美味しさであった。
海を眺めながら飯を食い、穏やかすぎる島での時間を、身体の全てで感じていた。

デザートにセコマオリジナル、
あんバター餅で〆

今日は昼から、島を舞台にしたアニメ映画の完成披露上映会が行われる。
島の公民館的な場所で、無料で観ることができるという。
カフェの奥さんからチラシを貰って知ったそれを、私はとても楽しみにしていた。
奇跡的にシフトが休みだったのも、ラッキーとしか言いようがない。
始まるまで時間があったので、これまたお気に入りスポットの足湯へ向かった。

しばらく私1人で浸かっていると、大きなリュックを背負った若い男性が、控えめに入ってきた。
私は気付くと声をかけていた。
人が少ない島での暮らしは快適だが、無性に人と話したくなる時がある。
私は自分でも驚くほど開放的になっていた。
「観光で来られたんですか?」と問うと、「山を登りに来ました。」と穏やかそうな男性は答えてくれた。
嬉しかったので、どんどん話しかけてしまう。
聞くと、はるばる長野から来たらしい。
朝5時から登り始めたとのことだが、あいにく頂上は雲がかかっていて美しい朝日は拝めなかったようだ。
島は風が強いし天気もころころ変わるから、登山をはじめ観光にはシビアな面も多い。
それでも、島に来て後悔しないくらい、たくさんの魅力の詰まった場所だと私は思う。
私の地元である青森にも来たことがあるというその男性としばらく会話を楽しんでいると、5〜6名のおじさんたちが足湯へやってきた。
「こんにちは!お邪魔してもいいですか?」と優しそうなおじさん達。
もちろんです〜と歓迎し、大人数で足湯を囲む。
短期だが住み込みで働きに来たのだという話をすると、東京から観光しに来たというおじさん達から質問攻めにあった。
「どこから来たの?」
「旅館のお手伝いかい?それとも飲食店?」
「実際、島のウニはいくらくらいなの?」
「島は風が強いけど、いつもこうなの?」
島の人間ではないけれど、答えられることは答えた。
青森の話も興味深そうに聞いてくれて、すごく人の良いおじさん達であった。
気付くと映画上映まで30分を切っていて、急いで足湯から出る私。
お兄さんとおじさん達に、島を楽しんでねと声をかけて、その場を後にした。
この前足湯に行った時も、登山が趣味のお爺さんに声をかけられた。
誰かと話したくなったら、足湯で人が来るのを待つ、なんていうのもありなのかもしれない。

島を舞台にした短編アニメ映画「ISLAND」。
絵本作家のそらさんが1枚1枚絵を描いて、それに声を吹き込み、効果音や音楽をつけ、アニメーション映画が完成した。
完成した作品を公の場で披露するのは今日が初めてのようで、本来であれば制作関係者以外観ることが出来ないのだという。
私は期間限定で島にいるので、このタイミングでこの映画を観ることができるなんて、とても幸運なことだと思った。
座席にカフェの奥さんを見つけたので、朝のお礼と共に声をかけて、その後は隣に座った島民のおばさんと会話をしながら上映を待っていた。
絵本作家のそらさんを始め、制作関係者の方々の挨拶があり、いよいよ本編の上映が始まる。
映画を観ること自体久しぶりだったので、ワクワクした気持ちでいっぱいだった。

観終わった感想は、ひと言でいうと「素晴らしかった」に尽きる。
美しくも可愛らしい映像と、壮大かつ優しい音楽もあいまって、所々涙が出そうになった。
映画では、生きることに疲れてしまったペンギン(のような生き物)が、知り合いの写真家に誘われて島にやってきて、感受性豊かな心を取り戻すまでの様子が、生き生きと描かれていた。
島の美しさ、穏やかさ、全てを受け入れてくれるかのような広大な自然が、15分間の映像の中にギュッと詰まっていた。
私は生粋の島民ではないけれど、島の魅力にやられた1人として、こんな素晴らしい映画を作ってくださった方々に感謝の気持ちでいっぱいになった。
短編映画にこんなにも心打たれたのは初めてだったので、それだけで今日はとてもいい日だと思えた。

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本日のラストは、勤務先兼自宅の近所の喫茶店でご飯。
タコカレー2,000円。
高すぎやしないかと思ったが、どうしても食べてみたかったので注文した。
黒々としたルーに、タコがたくさん入っている。
タコのコリコリとした食感に、かなりスパイシーなルーが思った以上に合う。
ビールと合わせる予定だったが朝から飲んでしまったので、代わりにバニラシェイクを頼んだ。

おお、これまたなかなかのボリュームではないか。
よく見るとアイスも2段になっていて、お得感があった。
カレーが予想以上に辛めだったので焦ったが、牛乳感たっぷりのシェイクのおかげで、食べ切ることができた。ご馳走様でした!

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食べ過ぎた。いつも後悔するが、好きなものを好きなだけ食べる日を作ることは、やめられない。
きちんと節制することが出来る私だからこそ、こういう日もないとダメなのだ。
けれど、若いうちから健康に気遣った方がいいに決まっている。
なので、懺悔の意味も込めて夕方はたくさん歩こうと思っている。
有酸素運動も兼ねて、部屋の掃除も済ませた。
島の散歩は飽きない。
好きな音楽を聴きながら歩くのもいいし、海や風の音、かもめの声をBGMにするのもいい。
ノートとボールペンをリュックに入れて、フェリーターミナルで日記を書くのもいいだろう。
大きな商業施設やカラオケや映画館は無いものの、代わりに広大な海と山と美味しい空気が島にはある。
スマホから少し離れて、アナログに生きてみるのもいいんじゃないかと思う。
生き急がずに、深呼吸をして。

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