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新海誠監督作品『すずめの戸締り』は、すばらしい作品だった
ひさびさに新海ワールドに浸りきった作品だった。3・11を正面から取り上げるのに11年かかったのだと実感した。つれあいのAさんが、「上映後、中学生の女の子たちが座席から動けないで、ぼうぜんとしている姿をを劇場で見た。」と語っていた。それだけでも、新海監督の意図は10代に届いたのではないかと思う。
22年11月16日の朝日新聞の記事を引用する。
新海誠監督アニメ「すずめの戸締まり」
震災の衝撃今の10代の子たちに
コロナ禍で過去のものになる焦り
「君の名は"」(2016年)、「天気の子」(19年)の新海誠監督が3年ぶりに送り出す長編アニメ「すずめの戸締まり」が大ヒツト公開中だ。東日本大震災の記憶を抱える少女が、地震を起こす怪異を封じて日本を縦断するロードムービー。新海は「約9年かけて作ったこの3作で、結局僕はずっと震災のことを考え続けてきた」と語る。
宮崎の静かな町で叔母と暮らす17歳のすずめは、旅の青年・草太と出会う。彼は、地震を起こす赤黒い雲「ミミズ」を吐き出す「後ろ戸」を
探していた。人知れず後ろ戸に鍵をかけるのが彼の家業だが、謎の猫「ダイジン」によって小さなイスに姿を変えられてしまう。すずめはイスの草太を助け、ミミズを封じる旅に出る。2人の前に「関東大震災の再来」という未曽有の危機が迫る。
地震の描写が生々しい。スマホから一斉に鳴り響く緊急地震速報の警報音。すずめの町の家々の被害。福島で目にする「帰還困難区域」の看板。母と暮らした富城の海沿いには津波の爪痕が残り、痛ましい記憶とも向き合うことになる。
美しい郵馴が向傑落下という災害をもたらす「君の名は。」も、異常気象で東京の低地が水没する「天気の子」も、実はあの震災を描いていた。「突然、世界が書き換わった。いつか、この日常は終わってしまう。震災で味わったそんな感覚を抱え、そこから映画を作ってきました」
12歳の娘が先日「君の名は。」を見て大泣きしたという。「初めて作品が理解できたと言うんですが、その『理解』の中に震災はないんですよね。僕の映画の観客の多くを占める10代の子たちに、震災の衝撃を伝えたい、体験を共有して欲しいと思い、生々しい記憶で今も震災とつながっている
17歳のすずめという主人公を作りました」
震災を真正面から描く決意をさせたのはコロナだ。「今の10代にとってコロナ禍は学生生活を変えた大きな悲劇。それはそれで大変ですが、コロナ禍で震災が過去のものになる、その焦りが背中を押しました」
前2作は「巫女」のヒロインを男性主人公が救う。今回の男女は立場が逆だ。「ラブストーリーというよリバディーものと考えていたので、どちらが男女でも、何なら同性同士でもよかった。女性を主人公にしたのは時代の変化もあります。『君の名は。』の後に『#MeToo運動』の大きなうねりで世界は一変した。『君の名は。』の男女入れ替わりでも『これは今やったらどうなの?』っていう描写があります」
すずめは憧れに近い恋心を草太に抱くが、草太は大人で保護者っぼい。「思春期」の甘酸っばさが控えめなのも前2作と違う。
「『君の名は。』を作る前から僕はもう思春期じゃなかったけど、今より10年分思春期に近かった。若い男女がどうやって出会うのか、どうすれ違うのか、本気でドキドキできる人がそれを描くべきで、今の自分はそこから少し離れているかな、と思います」
草太と並んで重要なのが、母代わりとなって12年育ててくれた叔母との関係性。きれいごとで済まない葛藤と和解のドラマが成熟を感じさせる。新海はまだ20代の02年、ほぼ独りで作った短編「ほしのこえ」でデビューし注目を集めたが、来年は50歳だ。
「今回はロードムービーだったからか2本分、3本分の労力が必要で、そのしんどさに初めて自分の年齢を実感しました。これをまた繰り返すのはつらいなと思いますが、まだできるかな。前2作の時と同じく、見ていただいた方の声に耳をすませ、次を考えます」 (小原篤)