森永卓郎 著『増税地獄』を読む 1
森永卓郎と言えば、日曜日の朝の『がっちりマンデー』で、ニコニコしているイメージがあるが、経済学者としては、けっこうシビアーなリアリストだということが、この本を読むとわかる。「この国は、アメリカの属国ではなく、アメリカの有力な同盟国であり独立国だ」という岸田の妄言を信じている限り、われわれに待っているのはさらなる重税奴隷の道だけだ!!
第1章 重税国家ニッポン
■岸田総理がひた隠しにする事実とは?
実は、安倍政権の2020年度は、プライマリーバランスこそ80兆円の赤字だったが、この年度に国が増やした借金は、102兆円にも及んでいる。ただ、そのために経済学的には新しいことがわかlった。それまで財務省をはじめとして経済学者も100兆円を超えるような借金を増やせば、円が暴落して、国債が売られてハイパーインフレに襲われると言ってきた。
ところが実際に100兆円を超える借金増でも日本経済に何の変化もなかつた。国債の価格にも為替にも影響はなかった。ましてハィパーィンフレなど、その兆候さえ見えない。財政赤字を出しても大丈夫であることがわかったわけだ。
その事実をひた隠しにして、岸田総理は、とにかく2025年度にプライマリーバランスを黒字化する方向に動いている。
そのために、今後3年間で何をするか。かなりの確率で消費税率を再度引き上げすることになるだろう。その中でよく言われるのは、「日本の消費税はヨーロッパと比べると低いよね」ということだ。
ぜひ財務省のホームページを確認してほしい。OECD加盟諸国などの消費税率を比較したグラフが掲載されている。よく見るとアメリカが抜けている。アメリカは消費税がゼロだからだ。
アメリカの場合は、州ごとに小売売上税があるが、オレゴン州など、小売売上税がない州もある。つまり、消費税がなくても財政は回るのだ。
さらに、ヨーロッパは消費税の負担が重いのは事実だが、その分福祉や教育、社会保障は充実している。
よく引き合いに出されるスウェーデンの例を見ると、大学も含めて教育費はすべて無料。日本は私立大学に通えば、年間の授業料は100万円を超える。ヨーロッパとはとてつもない差がある。
教育費については、OECD加盟国の公的負担の比率、つまり政府がどの程度を負担しているかを比較すると、日本はデータのある加盟37カ国中、36位だ(2019年時点)。
要するに、政府が学校教育にほとんどお金を出していないのだ。 もう1つの例として年金はどうかというと、年金の所得代替率の国際比較がある)。これも日本は40位。ギリシャでさえベスト10に入っている。財政破綻して年金を3割カットしても日本よりもはるかに高いのだ。
これらを見ても、日本は教育にも年金にもお金を使っていないことは明らかだ。完全な重税国家といえる。しかも、さらにひどくしようとしているのが、今の日本政府、財務省といえる。
前述のように普通の会社員でも半分持っていかれる。残った半分の中から消費すると、消費税で10%を徴収される。政府はその消費税を「15%にする」とか「19%だ」とか、とんでもないことを言っているのだ。
一生懸命働いても手元にはほとんど残らないという恐ろしい未来が見えている。
政府は「預貯金を持っている人」を切り捨てる
多くの人は、負担が増えていることに何となく気づいていると思うが、自分の生活にどれほどの影響を及ぼしているのか、正確に理解していない。実際に数字で検証してみると、実はとんでもないことが、今の日本では起きているのだ。これが日本の財政の現状と言える。
1つだけ確かなことは、政府が預貯金のある人を切り捨てにきたことだ。それに対抗する究極の手段は、貯蓄を持つのではなく、公的年金の範囲内で基礎的な生活費を賄うことだ。
私は将来、厚生年金受給世帯の年金は、夫婦で月額13万円にまで低下すると考えている。
現在の厚生年金のモデル年金額は月額22万円だが、厚生労働省の財政検証によると、約30年後の年金額としてIからⅥまで、6つのケースが示されている。ケースⅥは月額12万9000円になっていて、実際にはこのパターンになる可能性が高いと私は見ているわけ だ。
そのときになっても生きていくことができるように、ライフスタィルそのものを構造改する必要がある。普段は質素な生活を続け、贅沢をしたいときは、預貯金を取り崩す。そのためには、自分の家を持っている必要がある。
ただ、大都市に家を持つのはお勧めできない。地価が高い大都市では、莫大な相続税の支払いが避けられないからだ。2015年の税制改正で、相続税の基礎控除が4割も引き下げられた。
〈相続税の基礎控除の計算式〉
●2014年12月31日まで
5000万円十(1000万円×法定相続人の数)
●2015年1月1日から
3000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、子ども2人が相続人となるケースでは3000万円+(600万円×2)で、基礎控除は4200万円となる。相続財産がこの金額を超えると相続税がかかる。
大都市は地価が高いので一戸建ての自宅を保有しているだけで基礎控除を超えてしまう可能性が高い。田舎の場合は、地価が安いので多額の預貯金を持っていない限り、相続税の心配はない。
こうしたことも考慮すると、老後生活は家をどこに構えるのかによって、ライフスタイルが大きく変わってしまう。その解決策は第5章で紹介する。