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雨のと部屋のと

 女性らしい部屋の窓から雨の轟音がなだれ込んでくる。彼女が蝋燭を点火させて部屋のあかりを消せば、蝋燭の炎が垂直に立つ。
 雨以外、何が聴こえる? 
 彼女が絨毯の上で抱えた膝の上に顔を乗せて、こちらを見つめる。
 車のタイヤが路面の水を剥がす音がする。傘だろうか、固い布を叩きつけるような音もしている。彼が窓に身をよせて立つと、並びの家屋の裏庭で風見鶏が風上を直視していた。
 鳥は眠っている。寸前で渦を巻く雨を避けながら、鳥たちはみな眠りこけている。空間は雨に占拠され、家々は仄かなあかりをともす孤立した船たちの佇まいで、暗色に沈んでいる。
 暗色以外、樹木の緑も、車の赤も長方形の青や円錐の蒼も、みな雨に沈み込んで、敷地の大理石の傾斜はこのマンションへ落ち込んでいた。
 赤ん坊の棺桶のかたちをしたバイオリンケースを持ちだした彼女は、あかりに明滅する絨毯の広がりの紫にそれを置き、もう一つ、蝋燭を足した。火がみずからの炎を照らして二つ咲き、そのあかりによって窓が内側に閉じられたようになる。
 彼女の弦楽器が鳴き声を上げる。流れだした音階を彼が眺めると、音色のうしろにまで雨の音が廻り込んでいた。彼女が奏でながら部屋を歩くとその影が彼女を追いかける。エアコンディショナーがブリザードの息を吐く壁の角、楕円の黄色へ影が入り込んだ。
 炎の花のあかるみと射し込んでくるわずかなあかるみとがふれあい、内の音と外の音に振動する硝子物質は、いまにも蒸発しようとしている。
 まだ蒸発しようとしている。


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