上海の夜の橋にいました
上海のあかるい夜、静かな橋のたもとに座って、なのにまだ憎きあいつらの残像が残っていやがる。うるあ、と赤い柱を殴れば、痛えよとつぶやいて一人……
灯篭流しのまぼろしを目にする期待でこの異国へ飛んだのに、思いだすのは生き残りばかりで、今夜も憎らしいやつらばかりがこの気持ちに喰つてかかる。
──海外へとなにか探す旅が滑稽なのは飛んでも飛んでも喰らいついてくることに気づかないからだ。
うるせえ、喰らわしてやっているのだと息を荒らげるも、それにしたって自分が浮かべた大嫌いなはずのまぼろしだからと異国情緒とやらに興醒めしていく自分に立腹する。
──もう一度、柱を赤く殴ろうか。
──拳豪でもあるまい。
夜空を飾る街あかりのなか、此岸と彼岸の橋の赤をあたりまえのように静かに往来する人々はあたりまえだが誰一人こちらを見下ろさない。
ぽつねんと橋の赤のたもとで影法師のように一人、上海の夜にながめる光景は、静かにこちらを無視している。