《背徳と快楽》 「ねえひなこちゃんどういうこと?」
《泥酔えっち》 ――ほぼ初めて飲んだお酒に、お店を出る頃にはベロベロだった。 ひなはそんな私をタクシーに押し込んで、自分も乗り込んで行き先を運転手さんに告げた。 「ねぇ、ひなぁー」 「何」 「えへへ、ひなの香りだね」 「……」 ひなの肩にコテンと頭を寄せる。ひなは鬱陶しそうに舌打ちを打ちつつも頭を退かすことはなかった。 「ひなぁ」 「んだよ」 「えへへ、呼んだだけー」 「……」 「ひなぁ」 「うる……っ!」 うるさいと言いかけたひなの太もも
《ひなとサクラ》 エレベーターから降りれば目の前には受付があり、スーツを着た男の人がいた。 「いらっしゃいませ、ご指名は?」 「あ、ひ……サクラで」 「かしこまりました」 受付にいる男の人はマイクを通して「お客様ご案内致します」とアナウンスする。それが妙に恥ずかしくて案内された席に座るまで少し視線を落として歩いた。 財布の中には2万円しかない。こんなんでホストクラブに来ていいものなのかもこの世界に無知な私にはわからなかった。 派手なEDMがかかり、赤かピン
《消えた鎖》 髪をバッサリと切った。 ショートボブになった頭が軽くて楽チンだ。アッシュを足した髪色もお気に入り。ピンク色しか持っていなかった化粧品には赤やオレンジのチークやリップを買い足した。 自由を痛感する。 というのも、ひなは私が髪型・メイク・服装を変えることを酷く嫌がって変えようとするたびに癇癪を上げていた。 ひなに強制されていただけで、私は元々可愛い系じゃない。好きじゃない髪型をして、好きじゃないメイクをして、好きじゃない服を着せられていた。でもそ
《大人ごっこ》 ひなと口を利かなくなって3日目。 小学校からずっと登下校も一緒だったし、大した喧嘩もしたことなかったのに今じゃ目も合わせてくれない。 それどころか、昨日電子辞書を借りたくてひなに会いに教室まで行ったのにガン無視だった。 漸く異変に気付いた同級生たちが腫れ物を扱うように私とひなのことを見てくる。友達ですら、私に気を遣ってひなの話題は避けているし、何より男の子がよく喋りかけて来るようになった。 「桜井と別れたって本当?」 「そもそも付き合ってす
《束縛暴君》 間違ってる。全部間違ってる。 この性に合わないゆるく巻かれた栗色の長い髪も、今時のアイドルみたいな左分けのパッツン前髪も、マスカラで伸ばした長い睫毛も、ピンク色のチークも、薄づくグロスも、ピンク色のスマホカバーも、全部全部、間違ってる。 私は一体、いつどこで道を踏み外してしまったのだろう。 「ひなちゃん! 30分も連絡返さず何してたの!?」 「授業だね」 「後5分返信が無かったら僕A組乗り込むところだったんだからね!」 目の前には今にも泣き