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【理論】LTVとCACとマーケティングオプションの大原則

LTVと許容CACの関係、CACとマーケティングオプションの関係。この三者の関係性の大原則を理解しているとマーケティングデザインの視座が劇的に進化する。本稿では、その大原則について紹介したい。

マーケティング施策のデザイン

LTVとCACとの関係性

ペイパル創業者のピーター・ティールの名著「ZERO to ONE」。新規事業や事業開発に取り組む人には必ず読んでいただきたい素晴らしい書籍だが、この中にCACとマーケティングオプションについて極めて重要な本質的示唆がある。LTVとCACとマーケティングオプションに関する大原則である。


LTVとCACとマーケティングオプションに関する大原則

  • LTVが大きいと、大きなCACも許容できる

  • CACの許容幅が大きいと、使えるマーケティングオプションが広がる

  • CACが小さい順に、以下のようにマーケティングオプションの幅が広がる。

    • バイラルマーケティング(口コミ、SNS活用):CAC目安=1USD 100円

    • マーケティング(広告など):CAC目安=100USD 1万円

    • セールス(営業マン):CAC目安=10,000USD 100万円

    • コンプレックスセールス(営業チーム):CAC目安=10 million USD以上 10億円以上

図:【大原則】CACとマーケティングオプション

出所:https://fourweekmba.com/sales-distribution-peter-thiel/

商品単価とマーケティングオプション

”高単価の商品は、営業コストをかけることができる。”

当然といえば当然だが、自社の製品や似たような競合製品ばかり見ているとつい忘れてしまいがちな大切な大原則だ。

例えば、テレビ広告を使ったマスマーケティングは、1個1000円のシャンプーでは効果的な手法である。なぜならば、1個1000円のシャンプーを売るのに1人の営業マンを貼り付けることはCACとLTVの関係上不可能だから。商品単価によって許容できるCACが決まっており、この場合、CACを低く抑えるしかないので、とりうる最大のCACの手法がマスマーケティングなのだ。例:消費財や家電など。

さらに低価格な商品、例えば、1個100円の饅頭を売りたいなら、CACを考えると現実的にはSNSと口コミしかななくなる。単価が低いものほど、マーケティングオプションが限られてくる。

一方で、1機が数十億円するような戦闘機を何十台も導入するような国家プロジェクトに対しては、営業・技術・その他プロフェッショナルで組成した営業チームを貼り付けてもLTVが大きいので、その巨大なCACも許容できる。例:石油掘削プロジェクト、航空機など。

高単価で継続的な販売が見込める生産財なども継続期間が長いためLTVが大きい。そのため、初期投資としての開発費用を含む大きなCACを許容することができる。例:石油化学品、金属素材、エレクトロニクス部品、自動車機能部品など。

商品単価が低い製品は、許容CACの上限が決まっているので、取りうるマーケティングオプションの幅も狭い。「ザ・モデル」のような分業システムを導入しようとしても、商品単価の低いSaaSなどで上手くいかないのは、CACが大きくなりすぎるからだ。「ザ・モデル」のような分業システムは、LTVが大きく、許容CACが大きいからこそ、成り立つシステムである。

ターゲット企業で自ずと取りうる施策が決まる

”単価の高い顧客には、営業コストをかけることができる。”

ターゲットが、コンシューマー(個人)、SMB(中小企業)、エンタープライズ(大企業)と大きくなるにつれて、LTVも大きくなるので、許容CACも大きくなる。許容CACが大きくなると、取りうるマーケティングオプションの幅も広がる。

Product-Led Growthの本質

”単価の低い製品には、マーケティング費用を抑えるフリートライアル+バイラルマーケティングの仕掛けが有効”

最近、流行りの「Product-Led Growth(PLG:プロダクト・レッド・グロース)」もこの大原則から考えるとよく理解できる。

PLGには「いい製品はマーケティングなんてしないでも、使ってみてもらえれば口コミで広がっていく。シェアされる仕組みを製品に最初から組み込んでおく。」というようなエンジニア思想が強く反映されているようにも思えるが、結局はzoomのようにtoC向けがメインでLTVがそこまで大きくない製品では許容CACがそこまで大きくないというのが、salesforce(ザ・モデル)との決定的な違いだ。

そこに気づいていたからこそ、zoomは、PLGをうまくデザインし、製品に組み込み、成功したとも言える。


「LTVとCACとマーケティングオプション」

極めて単純だが、この大原則を理解しておくことは非常に大きい意味を持つ。

例えば、エンタープライズとSMB向けのセールス手法の違いについては、以下のサイトが参考になるが、このCACとマーケティングオプションの大原則が頭に入っていると、かなり理解しやすくなるはずだ。

本稿と同様の論調は、例えば、以下のmarkezineでも記事化されている。ただし、当たり前すぎるのか、原則としての関係性の記載はないので、よくよくこの大原則を理解してから読み進めていく方が圧倒的に理解度が高まる。

CACとLTVとは?

CACとは、Customer Acquisition Costの略で、顧客獲得費用のことである。顧客1社を獲得するのに費やした(広告費、人件費、運用コストなどの)営業コストとマーケティングコストを含む。

LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客生涯価値のことである。ある顧客から取引開始から取引終了までに得られる収益の総額である。売上(/期間)×契約期間(期間)で計算される。

LTV>CAC が事業の基礎となる。

LTV/CAC>3 を目標の目安とすることが多いとのこと。これはざっくりと「営業利益率を30%保つためには、新規獲得コストを30%以下に抑えるのが健全」というような認識。

売上に対して、
・開発コストや顧客管理コスト(固定費) 40%
・CAC=新規獲得コスト 30%
・営業利益率(残り)30%

こんなイメージだ。利益率など事業ステージや商品によってケースバイケースなので、あまり意味はないのではないかと思っているが、

もっと詳しく知りたい方は、以下のようなサイトを参照いただくのが良いと思う。

参考文献

PLGを学ぶならこの本。

本稿の大原則の出所である書籍"ZERO to ONE"は示唆に富む素晴らしい本だ。最近、オススメの本を聞かれたら必ずこれは入れている。ぜひ一度は読んでいただきたい。


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TANAKA ICHIRO / 大企業の事業開発
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