光る君へ(35)道長はまひろの告白で賢子が自分の子であることに気づいたのかどうか考えてみた・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック
大河ドラマ「光る君へ」が面白い。ということで、「「光る君へ」で学ぶ脚本テクニック」と題した動画を作っていくことにしました。動画といっても内容はスライドとテキストなので、noteにも載せていきます。今回は第35回の学びポイントです。
今回の学び:ふたつの告白
今回、まひろは道長に「あなたとの不倫、物語のネタにしましたよ」と告白し、彰子は帝に「抱いてください」と告白しました。
ちょっと雑に要約しすぎましたが、どちらのシーンも非常によかったですよね。
まひろのシーンは、セリフが意味深で緊張感に満ち、見ている私たちの想像力を掻き立てるものでした。
皆さんはこのシーンで、道長が真実、つまりまひろの娘・賢子が自分の子であるということに気づいたと思いますか?
気になりますよね。後で詳しく考えます。
一方、彰子のシーンは、まさに不意打ちといった感じのストレートな告白で、演じる見上 愛さんの熱演もあって、とても感情を揺さぶるものでしたよね。私も思わず泣いてしまいました。
この「ふたつの告白」シーン、脚本的にも演出的にも対照的だったのですが、共通する部分もありました。
ということで、まずは、まひろのシーンから振り返ってみましょう。
まひろの告白
まひろの告白シーンの脚本的なポイントは、道長の質問によって、2段階に分かれていることだと思います。
第1の質問「この不義の話は、どういう心づもりで書いたのだ?」
これに対するまひろの答えは明快ですよね。
「我が身に起きたことにございます。我が身に起きたことは全て、物語の種にございますれば」
これは要するに、「あなたとの秘め事を元ネタにしました」ということです。
「恐ろしいことを申すのだな」という道長のセリフは、「え?そんなことまでネタにするの?作家ってコワい」って感じのニュアンスだと思います。
で、問題は、第2の質問「お前は不義の子を産んだのか」です。
このセリフに言葉を補うと、こんな感じになるんじゃないでしょうか。
「物語の中で藤壺は光る君との不義の子を生む。元ネタが俺たちのことなら、お前が産んだ賢子は俺の子なのか」
それに対するまひろの答えはこうです。
「一たび物語になってしまえば 我が身に起きたことなぞ霧のかなた… まことのことかどうかも分からなくなってしまうのでございます」
これ まったく質問に答えていないですよね ここで注目すべきなのは 意味深なセリフの内容より 「質問に答えない」という振る舞い
つまり「はぐらかす」という行為のほうです。
何故はぐらかしたのか
分かりやすくまとめると、こういうことです。
「不義の話はどういう意図?」と尋ねる道長に、まひろは「あなたとの経験が元ネタです」と正直に告白した。
しかし、道長が「じゃあ俺の子を産んだってこと?」と重ねて聞くと、まひろはその質問には答えず、「物語に書いてしまうと、本当かどうかは自分でも分からなくなるのです」とはぐらかした。
繰り返しますが、重要なのは、この「はぐらかす」という振る舞いです。まひろは何故はぐらかしたのか。そう考えると、この告白の「意味」が分かると思います。
まひろが道長の質問をはぐらかした裏には、ふたつの心理があると思います。
ひとつは、道長に嘘をつきたくないという心理。
そもそも、賢子が道長の子であることを知られたくなければ、嘘をつくことだってできたはずです。
にもかかわらずはぐらかしたのは、道長に嘘をつきたくないからでしょう。
もうひとつは、嘘はつきたくないが、積極的に答えたくもないという心理。はぐらかしたことで、賢子が道長の子だと遠回しに告白することになるわけですが、かといってその事実をハッキリ言葉にするつもりも、まひろにはないのです。
要するに この「はぐらかし」のセリフは 真実を遠回しに告白しつつ、
でもそれは「お互い口に出さずにおきましょう」という注文も同時に伝える、 非常に高度なセリフなんじゃないかと思います。
原稿を受け取って廊下を歩く道長がはたと立ち止まったのは、まひろのセリフに込められたこの複雑なニュアンスを理解したからではないでしょうか。
彰子の告白
さて、次は彰子の告白シーンを見てみましょう。
セリフの「裏」を読まないと意味がわからないまひろの告白シーンとは対照的な、ストレートで、だからこそ心を揺さぶる告白です。
まひろが彰子を諭します。
「中宮様。帝にまことの妻になりたいと仰せになったらよろしいのではないでしょうか。帝をお慕いしておられましょう?」
それを聞いて、彰子は反論します。
「そのような…そのようなことをするなど私ではない」
しかし、その舌の根も乾かぬうちに、彰子は声を振り絞って帝に告白します。
「お上! お慕いしております」
この不意打ちが、実に素晴らしいですよね。
「そのようなことをするなど私ではない」
そう完全に否定しておきながら、まひろの言葉をそのまま繰り返して泣く彰子。
この一気に反転する態度と素直な言葉が、彰子の若さと、それ故の苦しみを、本当に上手く表現していると思います。
退散する男たち
まひろの告白が、遠回しで意味深な「大人の告白」だとしたら、彰子の告白は、突然でストレートな「若者の告白」だと言えるかもしれません。
ただ、どちらにも共通しているのは、それを聞いた男の態度です。
道長も帝もリアクションに窮して、その場から早々に退散してしまいます。
どんな形にせよ、自分の存在を賭けた告白には、それだけの力がある。
そういうことなのかもしれませんね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
背景画像:
From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99
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