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光る君へ(23)周明の末路とまひろの結婚について考えてみた・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック

大河ドラマ「光る君へ」が面白い。ということで、「「光る君へ」で学ぶ脚本テクニック」と題した動画を作っていくことにしました。動画といっても内容はスライドとテキストなので、noteにも載せていきます。今回は第23回の学びポイントです。
歴史の知識や「源氏物語」については一切触れませんので、予めご了承ください。

今回の学び

今回いよいよ、私がかねてから「脚本的な大問題」として注目していた「まひろと宣孝の結婚」を描くシークエンスに突入しました。

その大問題を解決するために周明というオリジナルキャラクターが投入されたのではないか。それが現時点での私の見立てです。

史実からすれば、まひろは宣孝と結婚せねばならない。しかし未だまひろにはその動機がない。まひろの「結婚の動機」を作るために、周明というオリキャラを登場させた。そういう読みです。

順を追って詳しく説明します。

スルーされる宣孝

宣孝がまひろを女として意識していく様子は、かなり丁寧なグラデーションで描かれていますよね。

自分の子供のような親戚の娘を妻にするわけですから、現代の感覚でも納得できるよう描くには、十分描写を積み重ねないとリアリティが出ない。そういうことだと思います。

今回も、ラストシーンで「わしの妻になれ」と迫るまでに、宣孝は3度まひろを「口説き」ますが、3度とも「スルー」されています。

まず

「これは都ではやっておる肌油じゃ」

宣孝はそう言ってまひろに手土産を渡します。

男性キャラが女性キャラに「化粧品」をプレゼントするのには意味があります。有り体に言えば、「気がある」証拠です。

しかしまひろは、それを無視して、為時への土産である書物に飛びつきます。

次のセリフ

「会う度にお前はわしを驚かせる」

これはまひろの魅力を称えているわけですから、「好きだ」と言っているに等しいものです。

しかしまひろは、宣孝がウニのことを言っているものだととらえて

「この生ウニには私も初め驚きました」

と返します。

そして極めつけは、ほとんどプロポーズと言っていいこのセリフです。

「お前と会うと違う世界がかいま見える。新たな望みが見える。未来が見える。まだまだ生きていたいと思ってしまう」

まひろはこの重いセリフを完全にスルーして

「まだまだ生きて私を笑わせてくださいませ」

と返します。
つまり「これからも愉快でお気楽な親戚のおじさんとしてお付き合いくださいね」ということです。

宣孝は今や女としてまひろを見ているにも関わらず、まひろは相変わらず「愉快でお気楽な親戚のおじさん」としてしか宣孝を見ていない。これらのやり取りは、そういうすれ違いを描いています。

文学的な天才であるまひろですから、恋愛の機微に鈍感なのではなく、内心では宣孝の好意に気づいていながら、それをおくびにも出さずスルーしているのかもしれません。

いずれによ、まひろのこういうところが、ますます宣孝を惹きつけるのでしょうね。

今回、女院が道長に、どうしてまひろや中宮定子はモテるのかと尋ねるシーンがありましたが、その答えはこのあたりにあるのではないかと思います。

結婚の動機がないまひろ

少々話がそれましたが、「脚本的な大問題」というのは、ことここに至っても、まひろの側に宣孝と結婚する動機も理由もない、ということです。

史実として、まひろが宣孝と結婚することは決まっています。ただその動機や理由までは、記録が残っていません。ですから、脚本はそれを考えて描かねばなりません

先ほども言いましたが、宣孝の方は、かなりのシーンとセリフを費やして気持ちの変化を描いてきました。

しかし未だまひろの心には道長がいます。それは今回も、それぞれが雪を眺めるというシーンで象徴的に表現されていましたよね。

まひろの心を動かすには、宣孝のプロポーズだけではどう考えても弱い。もっと大掛かりな事件を起こして、それによってまひろの心が動かされる、そういう形にするしかない。

そこで投入されたのが、周明というオリキャラではないかと思います。

周明はまひろの好意を利用して、左大臣の道長を懐柔し、宋人たちの信頼を得ようとしています。

今回明かされたこの企みは、次回以降、まひろの心を動かす大きな事件に発展しそうです。

第一のオリキャラであった直秀も、その死によって、まひろと道長の生き方を決定的に変えましたよね。周明もそういう存在なんじゃないかと思います。

生きる場所の選択

ラストシーンの宣孝のセリフはこうです。

「あの宋人が好きなのか?あいつと宋の国になどに行くなよ」
に戻ってこい。わしの妻になれ」

これ、愛の告白ではありませんよね。愛の告白は、前のシーンで終わっています。まひろには完全にスルーされましたけどね。

この宣孝のセリフは「これから生きていく場所の選択」を
まひろに迫っている
のだと思います。

まひろが周明に夢中なのは、宋という国に憧れているからです。一方、宣孝と結婚すれば、都に戻ることができます。都に戻れば、道長との距離も再び近づきます

ですから、おそらくまひろは、宣孝と結婚するから都に戻るのではなく、「都に戻って生きよう」と決断するから、宣孝と結婚するのではないでしょうか。

周明の企みによって、まひろは宋の国への憧れを失い、都で生きる決意をする。そのために宣孝と結婚する。今後はこういう流れになるような気がします。

周明の末路

さて、こうやって考えると、周明の末路は暗いと言わざるを得ません。

理由のひとつは、先程も言いましたが、第1のオリキャラである直秀に似ているからです。主人公の生き方を変えるほどのインパクトを残すキャラクターが、幸せな結末を迎えるとは思えません。

もうひとつの理由は、ちょっとマニアックな見方になってしまうのですが、周明のキャラが「花の影」という映画でレスリー・チャンが演じたキャラに似ているからです。

「花の影」は、中国の巨匠チェン・カイコー監督の1996年の映画で、中国の大スターコン・リーと、香港の大スターレスリー・チャンが共演したメロドラマです。

ジゴロのレスリーは、子供の頃に召使いとして使えた家のお嬢様コン・リーを騙して金を巻き上げようとしますが、彼女を愛してしまい組織に殺されます。

「光る君へ」第16回のタイトルが、漢字は違うものの同じ「華の影」なんですよね。

これまでのタイトルを見れば一目瞭然なんですが この16回のタイトルだけちょっと異質なんですよね ストレートにドラマの内容をあらわしたタイトルばかりの中 「華の影」だけが詩的で抽象的なんです。

メロドラマでよくある話といえばそれまでですが、私にはこの映画にたいするオマージュがあるような気がします。

だとしたら まひろを利用しようとした周明が まひろに好意を抱いてしまったがゆえに失敗し 宋人たちに粛清されてしまう…
そんな悲しい結末もあり得るのではないかと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。

背景画像:
From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99

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