VUCAの時代の上司に求められる、部下のキャリア開発支援に向けた心がまえとは?
昨日はコーチング研修だった。
このコーチング研修は、とある企業の新任管理職、これから管理職になる人を対象に毎年やっているもの。ただし、去年からは、「管理職のためのコーチング研修」というタイトルの前に、「CDPに役立てる」という言葉が追加された。
CDPは、キャリア・ディベロップメント・プログラムの略。
上司が部下のキャリア形成を中長期的な視点で支援するためのプログラムで、年に1回、部下と面談を行い、部下自身が思い描くキャリアイメージに耳を傾けるとともに、キャリア形成に向けた取り組みや心構えについての気づきを与えることがねらい。
CDPを念頭に置いたコーチング研修。これにはなかなかの感慨深いものがある。
2012年に出版した「はじめてのコーチング」の最終章では、コーチングを単なる言い回しやスキルの問題として狭くとらえるのではなく、経験学習やナラティブ、「行為の中の省察」といった、関連するさまざまな分野の知識に関連づける形で理解することが大事だということに触れた。
そこに盛り込んでいたのが、「部下のキャリア開発支援」という役割。目標達成や問題解決の先にある人材育成。さらにその先にある部下のキャリア開発を念頭に置くことが大事だということ。
だから、「部下へのコーチングは、職場におけるキャリア開発の役割も担って」いる。
そう書きながらも、職場の上司がそうした組織的な役割を直接的に担うことになる日がこんなにすぐにやってくるとは思っていなかった。
この間にVUCAの時代に突入し、キャリア形成を考えるにあたっては、この箇所で説明したエドガー・シャインの「キャリア・アンカー」を明確にするだけでは不十分になった。
課題図書として参加者のみなさんに読んでもらった、「働くひとのためのキャリア・デザイン」が説いているように、自分自身を知り、めざす方向性をしっかりと「デザイン」するだけでなく、想定外の事態が起きて、これから「流される」ことを念頭に置いた準備をする、あるいは、「流された」後でうまく立ち回るための、「ドリフト」のスキルを身につけることが大事になってくる。
「ドリフト」するためのスキルや心がまえ、実践がどういうものなのかについては、「働くひとのためのキャリア・デザイン」の約10年後に書かれたリンダ・グラットン「ワーク・シフト」を引いて説明。
これからは、「さまざまなタイプの情報や発想に触れることを可能にする広く浅い人間関係」を「意識的に築く」と同時に、「ある分野の知識と技能を深めていき、やがて関連分野への移動や脱皮を遂げたり、まったく別の分野に飛び移ったりする」ように、「さまざまな専門技能を次々と身につける」こと=「連続的習得」が大事になる。
もちろん、キャリアの「デザイン」と「シフト」、専門技能の「連続的習得」といった専門用語を、日常感覚から遠く離れた抽象的な概念として記憶しても、職場でのコーチングに役立てることはできない。
研修前アンケートの内容を参照しながら、いろいろと参加者のみなさんから話を聞いていくと、「VUCAの時代」はつい最近になってやってきたものではなく、ここにご参加のみなさんが、自分自身のキャリア形成の真っただ中ですでに経験してきたものであることが明らかになった。
そうした経験を踏まえ、どんな心がまえが必要だと考えるのか、いま何をしておけば、これから先に(何かしらの形で)役立つと考えるのかについて考えてみる。そして、いきなり起きてしまった想定外の事態にどう対処してきたのか、これからどう向き合っていくのか。
そんな風に、部下と向き合う前に、まずは上司である自分自身と向き合い、そこにひそんでいるキャリア形成のヒントを明らかにすることが、コーチングの言い回しやスキルを学ぶ以前に必要なのではないか。
という趣旨で研修を構成したので、「コーチング講座」と銘打っているわりには、じっさいの内容は、「対話を通じて自分自身のキャリア形成を振りかえるワークショップ(コーチング講座も入ってるよ)」みたいなものになった。
さて、どんな反響が返ってくるのか。来月初旬のアンケート結果の取りまとめが楽しみだ。