【書評】松谷みよ子 ふたりのイーダ
松谷みよ子さんは言わずと知れた超有名な児童文学作家である。
モモちゃんとアカネちゃんシリーズ、赤ちゃん向け絵本いないいないばぁはかなり有名であろう。
モモちゃんシリーズはわたしも大好きなので、また別の機会に書評を書こうと思う。
だが、今回はこちらの本を語りたい。
まだ戦後20年、戦争体験や記憶をもつ方がたくさん存在した時代の話である。
松谷みよ子 「ふたりのイーダ」
物語は、東京に住む小学生の直樹と2歳の妹ゆう子が、広島の花浦の祖父母の家に滞在するところから始まる。
田舎でのんびりと過ごしているとき、直樹は近所に古い洋館を見つける。
時がとまったようなその家には、言葉を話し動き回る、小さな椅子が住民の帰りを待っていた。
おじいさんと孫である小さな女の子が、ずっと帰ってきてないのである。
直樹が見たことないような旧式のラジオ。
なぞの年で書かれた日めくりとそれがさす日付。
8月6日。
うたた寝中に聞いた、川で亡くなったたくさんの人の話。
知り合いになったりつ子お姉さんといく灯籠流し。
そして、東京に届いたりつ子お姉さんからの手紙。
いまよりずっと、戦争の爪痕が残っていた時代であることをひしひし感じる。
お年寄りだけでなく、成人しているほとんどの方が戦争経験者だった時代。
言葉を話す椅子は不思議な存在であるが、なぜかすんなりと受け入れられた。
洋館の美しい描写も、それが本当に眼前にあるように目に浮かぶものだった。
子どもの頃読んだとき、りつ子お姉さんはすぐに元気になり、本人の願いのとおり、幸せになれるとわたしは安易に信じていた。
いま久しぶりに読了したあと、涙がこぼれてしまった。
古い本であるが戦争の記憶が遠ざかるいま、読まないといけない本であると感じた。