秋と冬の食事会
毎年、母と誕生日を祝い合う。私の誕生祝いには、地元の行きつけの料理屋Yへ行くことが多い。今年はなかなか帰省のタイミングが合わず、1ヶ月以上が過ぎたつい先日、Yの予約を取った。Yでいつも通されるのは、カウンター席。調理の様子がよく見える、特等席だ。
まずはビールを、と思っていたが、当日はとても寒く、初めから日本酒を頼むことにした。気に入りの酒が切れているということで、似たような酒をとお願いし、運ばれてきたのは千葉の酒「寒菊」の無濾過生原酒だった。母は酒が飲めないので、ノンアルコールビールを注文する。
予約の際にあらかじめ頼んでおいた串焼きとお通しが運ばれてくる。ここは、串焼きが美味しい店。いつも1人、5〜6本は頼んでしまう。一品料理もとても素晴らしく、今回は「タコと蓮根のハンペン(海苔あんかけ)」「胡麻豆腐」「ウツボの唐揚げ」「いちじくとクリームチーズの天ぷら」などを注文した。いちじくの天ぷらは、秋に店を訪れる際には、必ず注文する料理だ。いちじくがとろりと甘く、一度食べたらやみつきになる。
お酒が入ると、わたしは饒舌になる。ちょうど仕事の転機が訪れていることもあり、正直に今後の展望を母に話した。親なら、誰もが心配するであろう内容だったが、わたしの性質を知っている母だからこそ、反対することなく「やれることをやってみなさい」と言ってくれた。
母にはこれまで、たくさん心配をかけ続けてきた。年齢を重ね、落ち着くだろうと思っていたが、人はそう簡単には変わらない。もう会社員はできないと自覚してしまったから、当初母が望んだ「安定」という道を進むことはできない。特に父が自営業で苦労してきたからだろう、子どもにはお金の心配をしない人生を送ってほしいと、誰よりも願っていたと思う。
串をもう少し食べたいと母が言い、母が2本、私が1本、追加で頼む。「そうだ、今年はプレゼントも」と、母がバッグから包みを出す。開けると、作家ものの湯呑みが入っていた。蕎麦猪口にも使えそうな大きさで、デザインが好みだった。この世に生まれてきたことを祝ってもらえる誕生日には、自分の存在意義をやすやすと感じることができる。
おなかいっぱいになったけれど、やっぱり〆は必要ということで、焼きおにぎりを1つずつ注文した。醤油だれが香ばしいおにぎりは外がカリッと香ばしく、半分に割ると中から湯気が立ちのぼる。「おかかが美味しいね」と、母が笑っている。心やすい人と、美味しいものを食べる。これ以上に幸せなことがあるだろうか。
一人暮らしをしていると、食事はあっという間に終わってしまう。帰省すると夕食を食べながら会話が止まらず、食後にもお茶を飲みながら話し続けて、気づいたら1時間が経っていた、なんてことも少なくない。みかんを食べながら、ちょっと甘いものをつまみながら。
母が会計を済ませてくれ、店を出た。夜はめっきり寒くなり、持ってきていた薄手のコートを羽織った。冬には母の誕生日。毎年、秋と冬の食事会を楽しみにしている。続けられる限り、ずっと続けたい。