幼なじみのM
私には幼なじみがいる。お互いの両親が同じ職場に勤めていたので、生後まもない私たちは、職場が契約している個人の託児所に一緒に預けられていた。幼なじみのMの家は私の家のすぐ裏にあり、歩いて10秒ほど。私の部屋から、Mの部屋が見える距離だった。
Mは小さい頃からとても活発で、私とは正反対。人前で話すことをこよなく愛し、司会役には率先して立候補するタイプ。高校生の頃には強豪校の陸上部キャプテンも務めるなど、とてもアクティブな女性だ。
小学校、中学校は一緒だったので、毎朝Mがうちまで迎えにくる。いつも準備が遅い私はMを玄関先でしばらく待たせてしまう。学校が終わると毎日のように、お互いの弟も交えて、近くの海で泳いだり、キャッチボールをしたりして遊んだ。
高校は別だったのでしばらく疎遠になったけれど、社会人になってからまた連絡をとるようになった。そして、よほど縁があったのだろう。地元から遠く離れたMの嫁ぎ先の家と、いまわたしが暮らしている家は車で30分の距離なので、最近は頻繁に行き来している。
Mの結婚相手はお寺の住職。穏やかな性格の旦那さんと、活発なMは良いコンビといえる。彼女は4人の子を産み育て(4人目は自宅出産した)、作業療法士の仕事をしながら、お寺の仕事、ヨガの講師と、日々奔走している。よくもまあ、こんなに動けるものだと、側から見て驚くほどに。
ただでさえ忙しいはずなのに、Mのパワーは止まることを知らず、お寺でさまざまなイベントを企画しては形にしている。今年に入ってから始めたのが、お寺で開く朝市。月に1度、住職の法話を聞く機会を設け、その後に野菜やお菓子、コーヒーなどの出店者を招いて朝市を開いている。
夏休みには20名以上の子どもたちを集めて、1泊の寺子屋を開催しているのも、もう何年目だろう。今年は地元テレビの取材も入ったそうで、お寺の認知度もしっかりと高めている。お寺という場所柄、檀家さんだけでなく、地域と密接につながった生活を送っている。
なにか心配事を相談すれば、いつも的を得た答えが返ってくる。「なるほどね」と納得しては感心し、自分の狭い世界(心)が少しずつ、広がっているような気がしている。彼女がよく、「あなたは本当にまじめすぎる。多くの人は結構、いい加減に世の中を渡っているものだよ。でも、それがあなたの魅力でもあるんだけどね」と、いう。
お世辞がいえないし、愛想笑いができないわたしと対照的に、誰とでもうまく渡り合っているM。それぞれ違う性質を持っているけれど、こんなにも長く付き合っていけるのだからおもしろい。
「太陽と月」「陽と陰」。幼なじみのわたしたちを表す言葉。