弥立つ果ての銀世界 #旅する日本語



あさみが「温泉行きたい」と言うから渋々蔵王まで車を出す。

中古の軽自動車はずんずん進むが、わたしの頭は引越のことでいっぱいだった。


来週には関東圏の実家へ帰る。就職先で夢破れたわたしには希望もお金も思い出もなかった。

それなのに一昨日から応援に来た幼馴染のせいで一向に進まない。


「帰ったら荷造りね」

「えー今日くらい良いじゃん」


ブレーキを踏むとタイヤが空滑りした。

あさみは銀世界にはしゃいでいるけど、わたしはもう見るのも嫌だった。


「早く全部終わらせたいの」


山形でのこと、全部忘れてしまいたかった。

しかしあさみが言う。


「終わらないよ。22歳の人生はまだ続くんだから、どうせなら良い思い出にしたいじゃない」


なにそれ、と思うのにフロントガラスに積もった雪がキラキラ輝き、はじめて山形駅に降り立った瞬間を思い出す。


「ね、芋煮食べたい」

「えー仕方ないなぁ」


わたしの山形は終わらない。わたしの人生の果ても、まだ見えない。




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七屋 糸
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