16才とまの話。精神神経科
一日目
やあ、レイン。そっちはどう。ジョンやエルカは相変わらずにやってるかい。え、僕?僕はね、長時間緊張にさらされることがここ数ヶ月なかったから、かなりしんどいね。「ここはしんどい奴らの集まる場所なんだから」自分にそう何度も言い聞かせて開き直ろうとしたんだけど無理だった。絶対的なつらさがなくなることはないし。そりゃ考え方次第で治るっちゅうもんじゃないさ。世の中には、そうやって治ると思い込んでいる、おめでたい奴らがいるみたいだけど。実際は違うってこと、レインはわかってくれてるよな。
ここへ来てすぐに診察があった。社交不安障害の僕を七人以上で取り囲んでの、拷問に相違ない診察がね。前にはおしなべて真顔の医師や研修医、後ろにはこの状況に半ば呆れている両親。それで、面長な医師、僕の中では面長先生と呼んでいるんだけど、彼にかすれ声で受け答えしているうちに気づいたんだ。入院というのは苦しさから逃れるシェルターじゃなくて、反吐が出る程嫌いな自分の醜い部分をえぐり出し、突きつけるという役目を果たしてくれるってこと。
でも、僕が緊張に緊張を重ねて疲労困憊して、更に次の拷問に向けて今か今かと不安を蓄積している中で、一抹の癒しもなかったわけじゃない。僕は自分の名前が君づけで呼ばれた時、切れそうに張った緊張の糸がちょっとだけ緩むのを感じたよ。さすがはベテランの看護師だな。研修医たちにまとわりついてる堅苦しさはちっともなくって、人に気を遣うってことが身に染みついてんだな、彼女。それが特に意識してなくても滲み出てんの。あの人といる時は、対坐してにらみ合ってるんじゃなく、隣同士でおしゃべりしているような安心感に包まれるんだ。全く、尊敬しちゃうよね。何しろこの僕を安心させちまったんだから。
とはいえこの時間になっても動悸がおさまらないし、今だって電話を持つ手がやけに震えやがるんだ。今、電話専用の狭い部屋にいんだけど。かなり声が響くね、ここ。外には漏れてないみたいだけど。
飯?米とキウイ三切れが関の山さ。食べ物を口に入れた時、不安の種が詰まった味がするんだよ。それをかみ砕いても、お次は胃に流れ込んできやがる。そして腸に。だから人は緊張すると便秘になるんだろう。考えてもみなよ。ジャングルでのうのうと暮らしていた生粋の野生動物が、突然、檻にぶち込まれるような状況に、今まさに僕が置かれているんだ。これは生理的な、自然な反応だ。まあそういうわけで、今夜眠れれば上出来かな。
とま
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