16才とまの話7。精神神経科
七日目
とまはいつも遊んでばかりの、しょうもない奴だろ?今日もカラオケで喉を潰し、服になけなしの金を費やして。こんな疲れには満足できない。
今日みたいな夜は、苦い中学校での日々を追想してしまうな。僕は中学一年の事件の後から、好きな人ができると、「どうせこんな僕を受け入れてくれない」という確信から、その人を敢えて嫌うような癖がついてしまった。だけど、愛というのはとことん与える作業なんじゃないかって考えてるから、僕のその見返りを求める態度は愛とは言えない。とはいえ、やっぱし僕は誰かに受け入れられたい。素直な子供の心で、そう思ってる。
八日目
今日もビルの十一階から眺め下ろした不忍池の水面に、かもめが群をなしてあまた浮かんでいた。彼らは気ままに流れに身を任せ、まるで僕が見にくるのを待っていたかのように、時折こっちにその白い羽をちらつかせていたよ。今の僕にはそれがあまりにも眩しかったんだ。不忍池に映る無人のビルの情景は確かに僕を誘ってはいたが、あの清冽な水に飛び込むにはまだ心の準備が足りないんじゃないかな。
いつも思うんだけど、どうして人は僕を止めるのかな。僕を止めるのが人であるかは定かじゃないが、あまり高尚なものではないんだろう。ということはつまり俗世間が僕を引きとめているのかな。それとも、自然の世界の孤独を怖れる気持ちが胸のどこかで疼いているのかもしれない。そんなのも、とるにたりない痛みであるはずなのに。僕は、死の恐怖というのを、些末な事柄を持ち出してごまかそうとしているのかもしれない。死が怖くない人間がいるなら、ぜひとも名乗り出ていただきたいね。