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電車に乗って身延山に行こう、のはじまり。(MK0-1)

日蓮宗の総本山・身延山久遠寺(みのぶさん くおんじ。以下、身延山)は、山梨県の身延町にある大きなお寺だ。近所で育ったので、わたしは子どものころから何度も訪れている。

わたしの両親は、特別熱心な日蓮宗の信徒というわけではなかった。ただ、身延山にはわたしの実家の家業を応援し、贔屓にしてくれるお上人様がいた。つまり、わたしが大人になるまでに享受した衣食住と教育は、身延山のおかげだったとも言える。

そういうわけで、東京に出ても引き続き訪問しようと決めていた。正直、参拝というほど立派な心がけではなく「身延山行きたいな」と思いついたときに、報恩の気持ちを胸になんとなく行くだけになるだろう、と思っていた。幼いころからこのスタンスは変わらない。

しかし、子どものころと違うのは、東京から身延山に行くのはそこそこ距離があって、一日まるまる使うことになるということ。そしてわたしは運転免許を取得する予定がないので公共交通機関で行かなくてはならないこと。この2つの点でハードルが高くなっていた。

のりもの好きなので問題ないといえばないけれど、これまで家族が運転する車の後部座席で、1時間くらいぼんやりしていれば気軽に訪れることができていたのに比べると、だいぶ違う。


身延山、そのうち行きたいなー、でもちょっと大変だなあ。と逡巡していると、東京に来てからいっしょに過ごすことの増えた元遠距離友だち(と言うのだろうか?)のたかやまさんが

「身延ってところに行ってみたい」

と言い出した。すごいタイミングだった。そのきっかけは『ゆるキャン△』(以下、ゆるキャン)というアニメ作品。その舞台は主に山梨県の峡南地域で、身延はその地理的な中心にある町だ。詳しく聞いてみると、どうやら原作漫画には身延山も登場するらしい。

「そこ、子どものころから行っているお寺なんです」

わたしがそう言うと、たかやまさんは少し考えてから

「わたしがいっしょに行くとあんまりよくない? できたらさーさちゃんといっしょに行きたいけど」

と言った。

たかやまさんが普段からいろいろとわたしの気持ちを慮ってくれるのはありがたい。でも、わたしが身延山に行くのはデリケートに扱うようなことではまったくないし、日帰りとはいえ旅行のようなもので、ひとりよりもふたりのほうが心強い。

そう話すとたかやまさんはにっこりして、少しブームが過ぎて、涼しくなったらいっしょに行きたいね、ということになった。ひとりでキャンプというあまりメジャーでない趣味が題材なのに、ずいぶん人気のある作品らしい。

そんな経緯を経て、わたしはお寺にあいさつを、たかやまさんはゆるキャンの舞台訪問をそれぞれ目的にして、初めてふたりで身延山に向かったのは、2018年の12月のことだった。

(続きます)