ありがとうヴァンフォーレ。いつかまた素敵な夢を、ともに。
2024年2月21日。ヴァンフォーレ甲府がAFCチャンピオンズリーグ2023ラウンド16の第2戦、韓国の蔚山とのホームゲームに臨んだ。
わたしとたかやまさんは国立競技場へ観戦に向かったが、キックオフが18時予定、家を出たのが17時半。去年のメルボルン・シティ戦に続いてキックオフにどうやら間に合わない。
ささづかまとめ
「お昼寝気持ちよかったですね…」
たかやまさん
「あのまま眠ってたかった…」
ささづかまとめ
「でもチケット4000円ですからね…」
たかやまさん
「もったいないよね…」
とうわごとのような会話をしながら笹塚の駅に向かって歩き、京王線に乗る。新宿で中央・総武緩行線に乗り換える。ホームには青と赤のヴァンフォーレのユニフォームを着た人たちの姿がちらほら見受けられる。
千駄ケ谷に着くとそれは顕著で、大勢の人たちがスタジアムに向かっていた。この前のメルボルン・シティ戦も同じくらいの時間遅刻したが、ここまでの数の「同志」はいなかったと記憶している。そういえばメルボルン・シティ戦は19時キックオフだったか。1時間早いせいで、会社や学校が終わって駆けつけたものの、微妙に間に合わない人がたくさんいるのだろう。
今回はバックスタンドの2階席をとっている。階段を上がってA1ゲートから入り、売店で飲食物を調達し、さてさてわたしたちの席のブロックは…と通路を歩いていると、ACLの得点時に流れる音楽がスタジアムに響いた。歓声がなくこれが聞こえるということは……。239ブロック。階段を上がってスタンドへ。
試合の前半は時折冷たい雨が降ったり止んだりする中、ヴァンフォーレの見せ場はあまりなかった。ヴァンフォーレの前線は蔚山のディフェンスにプレスをかけに行くのだが、蔚山は器用にボールをつなぎ続け、簡単には失わず、数的有利なエリアを見つけるとボールを前に運ぶ。ヴァンフォーレがそこをケアしに行くと今度はプレスが来ていない後ろの選手に渡す。質の高い中距離のパスも使いながら広く陣地をとって主導権を握り、ヴァンフォーレの選手たちを少しずつ消耗させていく。
蔚山は韓国で行われた第1戦を3-0で勝利している。ヴァンフォーレはこの試合、90分で3点差以上をつけて勝たなければその瞬間に敗退となる。ましてや蔚山はこの試合も先制している。蔚山の選手たちはクールにボールを回し続けていれば勝ち抜けるのだ。
前半は蔚山の余裕を見せつけられた。珍しく水色のセーターなど着て暖かそうなたかやまさんは試合にあまり関心がなさそうにぼんやりとしている。たしかに普段から応援しているチームでなければ眠くなりそうな内容ではある。ハーフタイムになってトイレに行く。たかやまさんが空腹を訴えるので売店で高価なホットドッグを買う。わたしはホットコーヒーを買う。
座席に戻る。薄いコーヒーを啜りながらヴァンフォーレのマスコット、ヴァンくんとフォーレちゃんのパフォーマンスを眺める。コミカルな動きから、サポーターやその子どもたちの気持ちを少しでも引き上げてあげようという気持ちが感じられる。健気だ。
たかやまさんはホットドッグを開封しほおばる。アルミホイルに包まれていたせいで見た目はぐちゃっとしているが、ソーセージが大きくて味はいいらしい。たかやまさんはだいたいなんでも喜んで食べる。もちろん、いいことだ。
後半が始まった。ヴァンフォーレは次々に選手を入れ替える。その過程で、蔚山が守備を固める中央ではなくサイドを使っていく戦術にシフトしていく。これが功を奏してヴァンフォーレの攻撃が活発になっていく。蔚山の守備の集中力が散漫になる瞬間もあり、いくつもチャンスが生まれる。惜しい攻撃が連続する。そして後半43分、小林岩魚選手のコーナーキックに三平和司選手が頭で合わせると、ボールはゴールの右隅に吸い込まれる。ようやく点が入った。大歓声の国立競技場。わたしもたかやまさんも思わず声をあげる。しかし、この1点をとるのにあまりにも時間がかかりすぎた。
その後、ヴァンフォーレはロスタイムに蔚山の速攻を止められず再び失点し、1-2で敗れた。
試合後、あいさつに来た選手たちにスタンドから大きな拍手が贈られた。限られた予算とマンパワー、ACLの規定を満たさず使用できないホームスタジアム、例年よりも多く主力級選手が移籍し大きく陣容の変わったチーム。ヴァンフォーレが厳しい条件の中でACLという国際大会を戦ったことをこの場にいる人たちのほとんどが理解しているのだろう。温かい、拍手だった。
わたしたちも立ち上がって拍手した。たかやまさんは「いわなー!」と叫んで手を振っていた。前回たかやまさんが「ヤクルトの選手っぽい名前」と言って応援していた中村亮太朗選手はこの冬にエスパルスに移籍してしまって、もういない。今度は小林岩魚選手を応援することにしたらしい。
試合後も選手たちが完全にピッチを去るまで、わたしたちは席に座ってスタジアムの空気を吸っていた。人いきれの残滓とそれを押し流す冬の風、土と芝の香りとやわらかな春の予感。
人はいつか必ず夢から覚める。しかし、いい夢を観られる夜もまた、必ずやってくる。わたしはそう信じている。となりで大きなあくびをするたかやまさんと目が合った。
たかやまさん
「帰ろう」
ささづかまとめ
「そうですね」
清々しい気持ちでわたしたちは国立競技場を後にした。どこか満足そうな表情をした観客たちに混ざりながら。
ありがとう、ヴァンフォーレ甲府。初めてのACL、お疲れさまでした!
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